●二重星アルビレオ●
「もうここらは白鳥区のおしまいです。ごらんなさい。あれが名高いアルビレオの観測所です。」
 窓の外の、まるで花火でいっぱいのような、あまの川のまん中に、黒い大きな建物が四棟(むね)ばかり立って、その一つの平屋根の上に、眼もさめるような、青宝玉(サファイア)と黄玉(トパース)の大きな二つのすきとおった球が、輪になってしずかにくるくるとまわっていました。黄いろのがだんだん向こうへまわって行って、青い小さいのこっちへ進んで来、間もなく二つのはじは、重なり合って、きれいな緑いろの両面凸レンズのかたちをつくり、それもだんだん、まん中がふくらみ出して、とうとう青いのは、すっかりトパースの正面に来ましたので、緑の中心と黄いろな明るい環とができました。それがまただんだん横へ外れて、前のレンズの形を逆に繰り返し、とうとうすっとはなれて、サファイアは向こうへめぐり、黄いろのはこっちへ進み、また丁度さっきのような風になりました。銀河の、かたちもなく音もない水にかこまれて、ほんとうにその黒い測候所が、睡(ねむ)っているように、しずかによこたわっていたのです。

 これは、宮澤賢治が書いた有名な小説「銀河鉄道の夜」の中に出てくる一節。白鳥区の終わり。つまりはくちょう座のいちばん南に位置する星がこのアルビレオです。アルビレオとは、アラビア語でくちばしという意味で、ちょうど白鳥のくちばしの位置に当たる星です。 賢治が書いたとおり、このアルビレオはとても美しい二重星です。地球から380光年の距離にあり、3.1等星の黄色の星と5.1等星の青色の星が寄り添っている様子は、6cmクラスの望遠鏡や、やや大型の双眼鏡(20倍程度)でも見ることができます。むしろ、低い倍率の広い視野で見た方が、天の川のたくさんの星たちとアルビレオの対比がとても美しく見えるのではないでしょうか。

30倍くらいの望遠鏡で見たアルビレオのシミュレーション図



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