今やパソコンは、一家に1台から一人1台へとどんどん普及しています。スタークリック!をご覧の皆さんは、どんな場所でパソコンを使っているでしょうか。
 天文の分野でも、パソコンの普及によりいろいろな場面で使われることが多くなりました。今回は、そんなパソコンと天文との接点をご紹介していきたいと思います。

「星空を再現する」 天文シミュレーションソフト
 コンピュータが使われる以前、天文学者は星の動きを計算するために、机上でたくさんの計算をする必要がありました。それは球面三角法などの高度な数学能力を必要とし、計算する数値も正に天文学的数値となり、より正確で精度の高い計算をするために、学者たちは頭を悩ませていました。
 私たちアマチュアにもコンピュータが普及し出した1980年代頃から、天文計算もコンピュータを使用することによりいままでできなかった精度の高い計算ができるようになり、最初は個人がプログラミングしていたソフトウェアも、より良い物が市販されるようになってきました。もともと、天体の運行はたくさんの円を複雑に組み合わせてシミュレーションすることで計算できるものが多く、コンピュータで計算させるにはとても良い対象だったのです。
 1980年代の後半からパーソナルコンピュータが「パソコン」と呼ばれるようになり、急速に普及するようになりました。アメリカのIBMが開発したPC/AT機をはじめ、日本では日本電気が発売したPC9801シリーズなどの16bitパソコンの登場で、パソコンの計算能力は飛躍的に向上しました。この計算能力をバックに、たくさんの天文シミュレーションソフトも発売されました。
 天文シミュレーションソフトは、天球上の星の位置データを元にして、地球上のあらゆる場所のあらゆる時刻の星空を再現できるもので、現在では地球以外の天体からの星空も再現できるソフトが数多く発売されています。天体の様々な動きをコンピュータに計算させることにより、いろいろな天文現象をパソコンのディスプレイ上で再現することができるわけです。
 これにより、それまで複雑な計算を何度も繰り返さなければ解らなかった彗星の軌道計算や日食・月食などの天体の会合が、可視的に簡単に調べることができるようになったのです。
 日本では、当初PC9801シリーズ用としてアストロアーツが開発した「ステラナビゲータ」シリーズが、現在まで非常に優れたソフトとしてバージョンアップを重ねて来ています。「パソコンプラネタリウム」がコンセプトだったこともあり、他のシミュレーションソフトにはない夕焼けや朝焼けなどをきれいに表示する機能が当初から搭載されていました。

THE SKY Win32 日本語版の表示画面
(クリックすると大きな画面になります)

DISTANT SUNS2 日本語版の表示画面
 現在、この他にもたくさんの天文シミュレーションソフトが発売されています。アメリカSoftware Bisque社の開発した「THE SKY」は、世界中に多くのユーザをもつソフトで、日本でも日本語化され発売されています。同じくアメリカVurtual Reality Software社で開発されてきたDISTANT SUNSも、数々のバージョンアップを重ねて根強い人気をもっています。
 また、フリーウェアやシェアウェアなど、エンドユーザが開発し頒布しているソフトウェアの中にも、優れたものがたくさんあります。今回のスタークリック!では、Windows用・Macintosh用各1つずつ、おすすめシェアウェアソフトを収録してあります。
こちらから是非いちどお試しください。

ステラナビゲーター Ver.5 の表示画面
(クリックすると大きな画面になります)

「天体望遠鏡をコントロールする」自動導入望遠鏡

 このようにして、天文シミュレーションソフトによりその日・その時間の星空がパソコンの画面上に現れるようになると、こんどはそれを使って天体を見てみようということになりますね。
 天体望遠鏡は、レンズや鏡を使って星の光を集める光学系の部分と、その天体を確実に捕らえ追いかけるための架台部分に分かれます。この架台部分にモーターを取りつけることにより、パソコンと連動して天体を自動的に導入し、追尾することができるようになるわけです。
 天文台の大きな望遠鏡では、昔からモーターを使って望遠鏡を動かし、天体を導入していましたが、現在では私たちが手にするような小型の望遠鏡でも、天体自動導入装置を内蔵した機種が多数発売されています。
 アメリカMeade社のLX200シリーズは、アマチュアが手にできる望遠鏡で天体自動導入を実用化した先駆けとも言える望遠鏡です。標準でRS232C端子を装備し、対応した天文シミュレーションソフトから画面をクリックするだけで、望遠鏡がその天体に向くわけです。このLX200シリーズでの開発を元に、より小型で持ち運びも簡単なETXシリーズにも、「オートスター」という自動導入機が発売されています。また、これの後を追うようにアメリカCerestron社もUltima2000やNexstar5などの自動導入機を次々と発売しています。

写真:
左中 Meade LX200-20  右上 Meade ETX-90EC 右下 Cerestron Nexstar5

ビクセン スカイセンサー2000PC
上はケーブル接続パネル
一番左のコネクタがPC用

 日本ではビクセンの開発した「スカイセンサー2000PC」が同社の赤道儀に取付ができる自動導入装置として普及してきました。アメリカ製品が鏡筒の交換できな光学系を採用にしているのに対し、日本では写真撮影に使われる需要が多いため、鏡筒の交換が可能なドイツ型赤道儀で使用できるスカイセンサーは大変注目されています。高橋製作所でも、従来から同社の大型赤道儀に使用されてきた「テレスコープトレーサー」のノウハウを生かした「Tenma」が発売されています。また、天文関係の電子機器のベンチャー企業として、NS企画の「DOG」やノブオ電子の「Pyxis」など、サードパーティーの自動導入機器も発売されています。これらも、パソコンの発展と同時にこれからもどんどん進化して行くことでしょう。

左写真 ノブオ電子 Pyxis

「天体を撮影する」冷却CCDカメラ デジタルカメラ

ビットラン(株) BJ・BSシリーズ冷却CCDカメラ

各種CCDチップの種類 ビットラン(株)提供
 こうして、これまで目ではなかなか導入することができなかった天体を望遠鏡の視野に導入することができるようになると、今度はさらに暗い目では見えな天体を撮影してもたくなってきます。昔から天体を撮影するには、フィルムを使って長時間露出することで、星の光をフィルム上に貯めてその姿を写し出す方法が取られてきました。これを電気的にやってしまうのが、「CCD」というものです。ビデオカメラやデジカメの受光素子として使われているもので、現在ではCCDを使用した製品が市場にたくさん出回っています。(右写真:ビットランBJ32Cで撮影したオリオン座大星雲M42)
 このCCDを使って天体を撮影することは、すでにかなり以前から行われていることです。フィルム同様、長い時間星の光をCCDチップの上に蓄積することで、暗い天体を撮影することができるようになるわけですが、CCDの特徴として、光を電子に変換することができるのと同様に、熱も電子に変えてしまう性質があるのです。このため、長時間光を貯めようとすると、そのチップがもつ熱によって発生した電子も画面に現れてしまうため、星の光がかき消されてしまうのです。
 そこで、CCDチップを何らかの方法で冷却して、長時間露光ができるようにしたものが「冷却CCD」と呼ばれるものです。天文台などで使用されている本格的なものは、チップを液体窒素などで冷却し、一定の温度を保つように作られていますが、市販されている冷却CCDは、ほとんどがペルチェ素子と呼ばれる熱交換素子を使って電気的に温度を下げています。
 冷却CCDは、そのかすかな光を非常に細かく分解する能力を持っています。この能力を生かして、例えば都会の明るい空の中から、星の光だけを抽出して写し出すということもできるのです。フィルムでは街のあかりにかき消されてしまう星雲の光も、冷却CCDを使うと簡単に撮影できてしまうのです。
(左上写真:武藤工業CVシリーズ冷却CCDカメラ)
 また、最近はデジカメの中にも長時間露出ができるような機種が増えてきました。CCDチップから出る熱によるノイズを減らす技術が進んできたためにできるようになったもので、中には数分もの露出ができるものも発売されてきています。
 パソコンで天体を自動導入し、冷却CCDで撮影をして、パソコンの画面で見る。天文台の望遠鏡のようなことが、もう私たちの手で簡単にできる時代になっているのです。
 これまで、大変な苦労をして撮影していた天体写真も、電子機器の開発で簡単に撮影できるようになってきていると言えると思います。

オリンパスC-2000(デジタルカメラ)で撮影した木星と土星 東京都品川区 吾妻 秀一さん撮影

画像処理する
 こうして撮影された天体の画像を、より鮮明に見えるように画像処理をするのも、パソコンを使用することにより可能になります。パソコンに取り込まれた画像は、数値として読み込まれます。その数値を数学的計算により解析することにより、いままで見えなかった天体の画像を浮き上がらせることができるのです。
 また、フィルムで撮影した写真でも、パソコンに取り込むことで普通のプリントでは見ることができなかった淡い天体の像を浮き上がらせることもできるのです。

t[画像処理ソフト MaxImDL Ver.2.0の画面見本

インターネットでいろいろ調べる

 パソコンを利用して星と直接触れるのも楽しいことですが、インターネットに接続すれば、世界中の天文関係サイトから、リアルタイムにいろいろな情報を得ることができます。

 たとえば、NASAが打ち上げたハッブル宇宙望遠鏡のHomePageからは、毎月新しい画像が公開されていますし、スペースシャトルの打ち上げの様子などもリアルタイムで見ることができます。

 また、いろいろな天文情報を提供してくれるサイトもあります。横浜こども科学館の「天文・宇宙ニュース」では、開館当時からパソコン通信を通じて情報発信を続けてきました。現在はインターネットからもたくさんの天文情報を公開しています。

 スタークリック!の「プラネタリウム投映情報」のページからは、各館のHomePageへのリンクが張ってあります。ここから、各館の最新情報や天文イベントの情報を手に入れることもできます。

 星空を見るのに必ずチェックするお天気も、気象衛星から送られてきたデータをそのまま見ることができる高知大学気象ページをはじめとして、いろいろなお天気サイトもあります。インターネットでは、。こんなふうに使い方ひとつでとても便利なサイトがたくさんあるのです。

可能性はまだまだ増える
 パソコンの発達により、これからもますますこの分野の可能性は増えて行くと思います。あなたはもうはじめていますか?。是非、パソコンと星。つなげて楽しんでみてはいかがでしょう。


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