「きゃぁ!下ろして。そっちは海よ!」
エウロパは驚いて叫びました。しかしながら牛は、そんなエウロパの声を無視して海の中へ飛び込んでいきました。そして、あっという間にそのまま沖へ向かって、もの凄い勢いで泳ぎだしました。
「お願い、誰か助けて!」とエウロパが海岸へ向けて叫んだときには、既に侍女たちの姿も見えないほど、はるか彼方に海岸線は遠のいていました。

 最初はなにが起きたかわからなくて、気が動転してしまったエウロパは、生きた心地もしませんでした。
「私を乗せてどこへ連れて行くの?お願い教えて。」としばらくして落ち着いたエウロパは白い牛に尋ねました。すると白い牛は、ゆったりとした太い声で、エウロパに答えました。
「安心しなさい、怖がることはない。私は大神ゼウスだ。お前を私の花嫁にするためにこのような白い牛に姿を変えて天空からやってきたのだ。」

 気がつくとまわりではイルカやニンフたちが次から次へと祝福の挨拶をしてくれているのにエウロパは気付きました。


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