その牛がゼウスの化身と知らないエウロパは、「まぁ珍しいこと。真っ白ですてきな牛さんだわ。お前はどこから来たの?」と、ゆっくりとおとなしく近づいてきた白い牛を見て、優しく声をかけました。
 エウロパはこわがりもせず牛のそばに近寄り、とても可愛がるように頭をなでてやりました。すると、牛はうれしそうにエウロパにすりよってきて、その大きな身体を低くし、あたかも「私の背中に乗ってください。」というようなそぶりをしました。
「あら、乗れっていうの?」
そういうと、エウロパは侍女たちの方を振り返り、「ねぇみんな、この牛に乗って遊びましょうよ。とてもおとなしくてかわいいわよ。」と言いました。でも侍女たちはみんな口々に「あぶないですわ。」と言って尻ごみしていました。
「大丈夫よ、ほら・・・・・・。」
侍女たちが怖がるので、エウロパはみずから牛の大きな背中に乗ってみせました。
 すると次の瞬間、牛は突然身体を起こし、一目散に海の方へ駆け出しました。


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