やがてオルフェウスも一人前の男になり、アポロンに遣えるニンフ・エウリディーケと結婚します。エウリディーケもリラの音色をとても気に入って、2人は仲むつまじく暮らしていました。ところがある日、エウリディーケがニンフの友人達と遊んでいるうちに、毒蛇に噛まれて死んでしまいました。知らせを聞いたオルフェウスはたいそう悲しみ、その悲しみの旋律をリラで奏でると、草花や動物たちはオルフェウスを慰めてくれました。しかし、オルフェウスはあきらめることができず、リラを持って瞑宮に行ってエウリディーケを連れ戻す決意をします。

 瞑宮への入口はギリシャの南にあるタイナロス島にある洞窟です。生温い風が吹き上げてくる洞窟を、オルフェウスはおそるおそる降りてゆきます。途中では見たことも無いようなけものが襲いかかろうとします。けれど、オルフェウスがリラを奏でると、けものたちはだまってその音色に聞き入ってオルフェウスを通してくれました。やがて、黒い水の流れる川に差しかかりました。そこには、死人だけを渡してくれる渡し守りのカロンがいます。オルフェウスは、カロンに自分の思いを切々と語りましたが、カロンは死人以外は渡すことはできないと断りました。オルフェウスは、持ってきたリラで自分の思いを音にして聞かせました。そのあまりの美しさにカロンは心を打たれ、川を渡ることを許してくれました。

 川を渡ると、そこは瞑宮の入口です。門は黒い大きな鋼鉄でできていて、押しても引いてもびくともしません。その時、番犬ケルべロスが襲いかってきました。オルフェウスはとっさにリラを奏でました。すると、さしものケルべロスもたちまちその音色に聞き入り、おとなしくなってしまいました。重い門をやっとの思いで開け、いよいよ瞑宮の中に入ってきました。奥には大きな宮殿があり、そこには瞑宮の王ハーデス(英語ではPluto)と妻ペルセフォネーが座っていました。

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