〜天体望遠鏡はどうして作られたのか〜

☆レンズの発見

 皆さんもご存じの通り、望遠鏡には必ず「レンズ」と呼ばれるガラスでできた丸いものが使われています。人間は、古くからレンズの存在を知っていました。例えば、川をながれる水は、その川の中の石や魚を大きく見せたり小さく見せたりしますし、水晶のように透明な鉱物の表面を磨くことにより、ガラスレンズと同じように物を拡大してみることができるのです。

 これは、光が空気中を通過するときと水や鉱物の中を通過するときとで異なった通り方をすることから起こります(正確にはその物質の分子の密度に関係してきます)。この違いのことを「屈折率」といいます。水やレンズなどの屈折率を表にしてまとめましたので、各種物質の屈折率の表をご覧ください。この表をみると、水でも空気より高い屈折率を持っていることがわかります。水をペットボトルなどの透明な容器に入れて向こう側を見てみると、景色が大きく歪んで見えるでしよう。これもレンズの一種なのです。



☆望遠鏡の発明

 時は17世紀はじめ。当時のレンズは平たいガラスを砂で削ってへこませた凹レンズがほとんどで、視力の悪い人のためにメガネに加工されて使われていました。近視用のメガネは凹レンズを使い、老眼用のメガネは凸レンズを使っています。オランダに住んでいたドイツ人のメガネ屋さんのハンス・リッペルスハイは、このメガネ用のレンズを組み合わせて使うと、遠くの物を大きく拡大して見ることができることに気がつきました。これが望遠鏡の歴史のはじまりです。

 やがてその望遠鏡はヨーロッパ中に広がり、イタリアで天文学や物理学の研究をしていたガリレオ・ガリレイもその存在を知ります。ガリレイは自分の作った口径4cmの凸レンズと凹レンズを組み合わせた望遠鏡をはじめて空に向けてみました。ガリレイは、この望遠鏡を使って木星に4つの衛星があることや、月に無数のクレーターがあることなど、たくさんの発見をしました。
 同じ頃、惑星の運動の法則を発見したドイツの物理学者ケプラーも望遠鏡に興味を持ち、1611年に凸レンズを2つ組み合わせた形の望遠鏡を発明しました。この望遠鏡は、望遠鏡を覗いたときの像が、上下左右が逆さまになった倒立像になる欠点がありますが、高い倍率でも広い視野が得られることが利点です。現在の「屈折望遠鏡」はほとんどがこのケプラー式望遠鏡で作られています。

 その後しばらくは、このようなレンズを組み合わせた望遠鏡が使われ、数々の新しい発見がなされました。ガリレオによって「耳」と呼ばれていた土星の輪は、1656年にオランダのホイヘンスによって土星本体を取り巻いているリング状のものであることが確認され、1675年にはデンマークのレーマーによって、木星のガリレオ衛星を使った観測により「光の速度」があることが発見されました。

 しかし、レンズを使った望遠鏡では当時の技術では大きなレンズを作ることができず、また「色収差」と呼ばれるレンズ特有の現象によりどうしても天体の細かい部分を見ることができません。そこで、リンゴを使って「万有引力の法則」を発見したことで有名なイギリスの物理学者アイザック・ニュートンは、金属の鏡が光を反射するのを利用して、凹面鏡を使って光を集め、斜めにおいた平面鏡で光軸を外に出して見る方式の望遠鏡を発明し、1688年に完成させました。

 ニュートンの望遠鏡は、光を集める面積を大きく取ることができるため、いままでより暗い星を見ることができ、高い分解能と色収差のない優れた性能を持っていました。それ以後、世界中でニュートン式望遠鏡が作られ、さらにこれを改良した様々な望遠鏡が次々と開発されて行きました。このニュートン式のように凹面鏡を使って光を集めるタイプの望遠鏡を総じて「反射望遠鏡」と呼んでいます。

 ニュートン以外にも、同じ頃に凹面鏡を使った反射望遠鏡を考えていた学者は多く、フランスのカセグレンは、ニュートン式のように光軸が外に出ることがない反射望遠鏡を1672年に考案していました。しかし、この望遠鏡は鏡の製作や工作精度に高い技術が必要とされ、あまり実用的とはいえませんでした。その後の機械技術の向上や、大口径の望遠鏡を備えた天文台ができるようになると、光軸を折り返すことにより鏡筒が短くなることや、副鏡を平面鏡に取り替えることでニュートン式に変えることができることなど、カセグレン式の利点が見直されるようになり、最近では小型望遠鏡でもこの形を改良したものを多く見るようになりました。

 現在市販されている望遠鏡の中では、このカセグレン式の欠点の一つである鏡の製作の難しさを、もう一枚別の補正レンズを使用することで補ったものを見ることができます。写真用望遠鏡の球面収差の補正用にドイツのシュミット氏が考案した「シュミット補正板」を鏡筒の対物側に取りつけ、副鏡を補正板に直接取りつけて構造を簡略化した「シュミット・カセグレン」式は、1980年ごろから量産効果により急速に普及してきた望遠鏡です。さらに、小さい口径でも製作が可能な「マクストフ・カセグレン」はロシアで考案された望遠鏡で、鏡筒の対物側に補正用のメニスカスレンズ(凸レンズとして磨いたレンズの反対側を凹レンズにした特殊なレンズ)を取りつけ、その中央部に反射メッキを施して副鏡とする方法を取っています。

 この他にも、主鏡(凹面鏡)を磨くときにあらかじめ収差を補正してしまう方法(ダル・カーカム式など)も実用化されていますし、補正レンズを接眼部側に組み込んだタイプのものも見られるようになりました。

 一方、一時はすっかりニュートン式などの反射望遠鏡にお株を奪われてしまった屈折式も、17世紀に入ってレンズの研究が進み、レンズの両側を磨いてレンズを作る技術や、ガラスの種類が異なると屈折率が変わる性質を利用して、凸レンズと凹レンズを組み合わせることで色収差を無くした「アクロマート」レンズが実用化されると、反射望遠鏡の欠点である反射率や光軸の問題が少ないことなどから世界中で作られるようになり、どちらの望遠鏡も現在まで様々な改良が加えられてきています。

☆ガラスの種類と望遠鏡が高い理由

 最初に書いたレンズの特徴の中に出てきた屈折率の表を見ると、光学ガラスの中にもいくつかの種類があることに気づくと思います。ガラスと言ってもいろいろな種類があって、天体望遠鏡に使用できるレンズは実はかなり限られています。

 レンズは光を屈折することでその効果を引き出していますから、たとえばレンズの中心部と周辺部で密度や性質の異なるような、均一性の悪いガラスはレンズとしては向いていません。これはレンズを作る段階で要求される高い技術の一つです。また材質も、光を遮るような透明度の低い材質は向きません。このように材質と技術の両面に高い物を要するわけです。

 俗に「ED」や「SD」と呼ばれるレンズは、屈折率の低い特殊なレンズのことを指します。屈折率の表を見ると、フローライトが最も屈折率が低く、それについでいくつかの光学ガラスが出ていますね。これらのガラスを組み合わせることによって、収差のない美しい天体の像を得ることができるように設計されているわけです。

 左の写真は現在レンズ材料として最高品質と言われている「フローライト」の原石と、それをレンズの素材にしたものです。フローライトは非常に純度の高いフッ化カルシウム(CaF2)で、天然の原石から精製されて作られます。通常のガラスに比べると柔らかく傷が付きやすいため、レンズの研磨にも高い技術が必要になります。天然物から作られるレンズですから、当然価格も高くなるわけです。

 これは反射望遠鏡にも言えることです。反射望遠鏡は研磨したガラスの表面に金属メッキ(アルミメッキが多い)を施しています。このガラスも、熱膨張が大きいとピントが乱れてしまってきれいな天体の像を見ることができなくなってしまいます。このため、熱膨張の少ないパイレックスやゼロデュアなどの、専用のガラスが用いられているのです。

☆レンズを使うと物が大きく見えるのはなぜ?

 皆さんは小学生のときにレンズを使っていろいろな物を見る実験をしたと思います。凸レンズや凹レンズの性質として、凸レンズでは物を大きく見えて、凹レンズでは小さく見えることを知っていますね。また、太陽の光を集めて、黒い紙から煙が出たりする実験もしたと思います。

 でも、なぜレンズを使うと物が大きく見えたり光を集めたりすることができるのでしょうか? その疑問を解く前に、皆さんが普段物を見るときに使っている「目」について知っておきましょう。

 右の図は人間の眼球の構造を示した断面図です。左から入ってきた光は、角膜と水晶体を通って眼球の反対側にある網膜に集まります。集まった光は色や明るさなどの情報を網膜が感じとって、視神経を通じて脳に伝達します。それが、私たちが「見る」という無意識にしている動作の仕組みです。

 これと、いままで見てきた「ケプラー式望遠鏡」の図を見比べて見ると、とても良く似ていることに気がつくでしょう。角膜や水晶体が凸レンズの役割をして、網膜にピントを合わせていることになるわけです。

☆ワンポイント:実際は水晶体より角膜の方が屈折率が大きくて、レンズとしての役割は角膜のほうが大きいと言われています。

 このミニ望遠鏡を持った私たちの目は、レンズを使うことでどのように物をみることができるのか。下の図に簡単に説明してみました。上の図はレンズを使わないで物を見たときの図。下の図は目の前に凸レンズをおいた場合の図。矢印の方向は人間の目を中心に考えたものです。レンズを使った場合と使わなかった場合とで、矢印の間隔が狭まっていることに気づくでしょう。間隔が狭まった分、レンズの向こう側にある青い丸は、私たちの目には大きく見えることになります。

 そして、もう一つの実験である太陽の光で黒い紙を焦がす実験。これは、レンズの持つ「光を集める」という力を利用したものです。人間の目にもレンズと似たものがあることは前に書いたとおりですが、その能力は角膜とガラス体の直径分しかありません。そこで、レンズや凹面鏡を使って人間の目の何百倍もの光を集めることにより、肉眼では見えない暗い星を見ることができるようにしたものが、天体望遠鏡というわけです。

☆ワンポイント:望遠鏡のカタログなどに書いてある「集光力」とは、一般の人間の瞳孔の大きさに対して、望遠鏡の口径が何倍の面積を持つかを単純に計算したものです。同じ口径の望遠鏡では、同じ集光力が表示されているはずです。つまり、望遠鏡の機種による集光力の性能の差を現したものではありません。

夏休みの思い出に、子供たちが望遠鏡作りに挑戦しました。
東京都江東区児童会館での『天体望遠鏡を作って月を見よう』というイベントのレポートです。
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