ファエトンは、母親と一緒にくらす元気な男の子でした。でも、ファエトンは自分のお父さんの顔を見たことがありません。物心つくまでお父さんのことを知らなかったファエトンも、自分の友達にはお父さんがいるのに、自分にはいないことを不思議に思うようになりました。ファエトンは、母のクリメネに聞きました。 「僕には、お父さんはいないの?。みんなにはお父さんがいて、いつも遊んでくれたり、いろいろなことを教えてくれるのに・・・。」 クリメネはファエトンに言います。 「あなたのお父さんは、あの空に光る太陽の神アポロンなのよ。お父さんは、毎日馬車に乗って空を走らなければならないから、ファエトンの近くにいることができないの。」 「でも、いつも空の上から僕を見守ってくれているんだね?。すごいや!。」 |
ある日、ファエトンは友達と野原で遊んでいました。友達も、ファエトンのお父さんがいないことを不思議に思っていました。 「ファエトンのお父さんはどこにいるの?。」 ファエトンは自慢げに話しました。 「僕のお父さんは、あの空たかくで太陽を走らせているアポロンなんだよ!。」 友達はとても驚いて、空を見上げました。しかし、 「神様がお父さんだなんて、そんなはずないよ!。」 と、ファエトンを笑い者にしました。 お父さんにも遊んでもらえず、友達からも笑い者にされてしまったファエトン。西の空に低くなった夕日の光る川のそばで一人泣いていました。そこに飛んできたのは、白鳥のキグヌスでした。キグヌスは、ファエトンのそばにとまり涙でいっぱいのファエトンの瞳を見つめながら、顔をのぞき込みます。 「キグヌスには僕の気持ちが解るんだね?。」 独りぼっちのファエトンは、毎日川べりでキグヌスと遊ぶようになりました。 |
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そんなファエトンも立派な青年になり、父アポロンに会いに行く決意をします。ファエトンはクリメネに聞きました。 ※東方の国=ギリシャから見て東の方角にあるアジア・中近東のことを「黄金の国」としていたとも見られています。 ファエトンは、ただひたすらに東へ東へと歩き続けました。しかし、神殿はいつまでたっても見えてきません。それどころか、空はだんだん白み初め、いつのまにか地平線から太陽が昇ってきてしまいました。 あまりのまぶしさに茫然と立ちすくむファエトンに、アポロンが気づきそばに呼び寄せました。 しばしの父子のやすらかな時間を過ごしながら、ファエトンは、これまで自分の歩んできた日々のことや、母クリメネのこと、そしてアポロンが父であることを信じなかった友人たちのことや白鳥のキグヌスのことも話しました。アポロンは、そんな息子ファエトンのことを思いやりながらこう言いました。 ファエトンは、アポロンに言われたとおり手綱をしっかりにぎり、うれしそうにアポロンを見つめていました。いよいよ出発です。馬たちは、火を吹きながら宮殿を飛び出して行きました。馬車は、雲を突け抜け、風を追い越し、ぐんぐんと空高くに向かって昇りはじめます。みるみるうちに地上の風景がファエトンの足元に広がっていきます。 ところが、空に昇る速度がいつもより早いようです。それは、いつものアポロンが乗っているはずの馬車が今日に限って軽いので、馬たちが自分たちの力を調節することができなくなっていたからでした。やがて、馬車は通り道をはずれて走り出してしまいました。さぁたいへんです。しかし、ファエトンはこの馬たちを静める方法など知りません。手綱を締めたり緩めたりしてなんと |
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こうなってはもうどうしようもありません。馬車は天を昇ったりはたまた地に向かってかけ降りたり、横に倒れたり引きずられたりしながら走り続けます。天は真っ赤に燃え上がり、大地の山や森も次々に燃えだしました。その炎はついに神々の土地まで被い尽くすようになり、海も干上がってしまいました。海の神ポセイドンももう我慢できません。 ※エチオピアの黒人たちの肌が黒いのは、このときに焦がされたためだと言い伝えられています。 このままでは天も地も滅んでしまう。急いでなんとかしなければなりません。この状況を見ていた大神ゼウスは、いつも雲や雨を降らせている塔の上に昇り、雲をかき集めて地上を覆おうとしましたが、天も地もすっかり干上がってしまい、もうそれだけの雲を集めることもできません。こうなってはもう馬車を落とすしか方法は無いようです。ゼウスは、右手に電光の弾丸を打ちふりながら、ファエトンの乗った馬車目がけて巨大な雷を落としました。 |
太陽の馬車はくだけ散り、雷に打たれたファエトンは火の玉のように光りながら地上に落ちて行きました。その体はエリダヌス河に落ち、ファエトンの体をやさしく冷やしましたが、ファエトンはもうこの世に帰ることはありませんでした。 地上からその様子をじっと見守っていたのは、親友の白鳥キグヌスでした。キグヌスは、光りながら落ちて行くファエトンの姿を追ってエリダヌス河まで飛んで行き、なんども川の中に潜ってファエトンを探していましたが、ついにそのなきがらを見つけることはできませんでした。キグヌスは、ずっとエリダヌスの川面を見つめ、ファエトンのことを思いながら、今も天の川の上を飛び続けているのです。 |
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