宮内光学工業(株)

本社・工場 
〒369-1621埼玉県秩父郡皆野町金崎177
TEL 0494-62-3371 FAX 0494-62-4858



 東京を流れる大きな川のうちの一つ、荒川をさかのぼり、埼玉県北部までやってくると、東京での堂々とした流れとは打って変わって、清らかなせせらぎが山あいを縫って流れるようになります。

 岩畳や川下りで有名な長瀞を過ぎ、荒川と木立をへだてたとても自然豊かな場所に、宮内光学工業(株)の本社工場があります。

写真:中央を流れるのが荒川 その手前が工場 川の向こう側は皆野町中心部 秩父市方面

 今回の取材を快く受けていただいた、鈴木社長にお話しを伺いました。

編集部:
 まずは、宮内光学さんの会社設立からの経緯についてお話ししていただけますか?。

鈴木さん:
 当社は、昭和45年3月に創業。今年で30年目を迎える光学機器メーカーで、これまで主に輸出用や大手光学機器メーカー向けに製品を生産するOEM製品メーカーとして、双眼鏡や医療用光学製品を製造してきました。当社で生産した光学製品は、様々なブランドとして日本はもとより世界各地で使われています。

 OEMメーカーとして信頼される製品を作り続けることは、自社ブランドの製品を作ることより大変なことではないですか?

 設計から素材の生産・加工・塗装・組立・検査・出荷までをすべて自社内で行うことで、安定した製品を送り続けたことが、メーカーさんへに実績として高く評価されたのだと思います。

 現在作られている製品についてお聞かせください。

 いままでのOEMメーカーとしての技術と自信を元に、自社ブランドの製品を作っています。普通の双眼鏡で天体を見ると、顔を空に向けなければならないため、安定した姿勢で見ることができないので、この接眼部を45度曲げた製品を作りました。現在は90度のものも発売しています。

(左写真:フラッグシップモデルのBR141 141mmフローライトレンズ使用の双眼鏡)

 いままでに作られた製品のお話しをお聞かせいただけますか?。

 「V6・V8・V10」という3種類の倍率の双眼鏡を、アメリカ向けに輸出していたことがあります。当時日本からの製品の輸出には通産省の承認が必要で、毎年決められた数の製品しか輸出することができませんでした。しかし、この双眼鏡は大変に評判が良く、アメリカからの要望も強かったためこの輸出枠とは別に特認貨物として輸出することが認められ、アメリカの大衆紙に記事として載ったこともあり、一気に10万台もの注文が殺到してしまいました。

 10万台も!。さすがにアメリカの市場の大きさを感じますね。

 ところが、私たちの工場ではそれまで月に1000台程度の生産量でしたから、急にそれだけの数を生産する能力はなかったのです。それでもなんとか月に5000台の生産まではできるようにしたのですが、アメリカからの月1万台の要望に答えることはできませんでした。アメリカではこの双眼鏡は通信販売で売られていて、商品より先に代金がディーラーに支払われているため、製品が送られてこないということは即クレームにつながってしまいます。結局、アメリカでの販売は打ち切られてしまい、残ったのは拡大した工場と従業員という結果になってしまったことがありました。

 せっかく多くの人に認められる良い製品を送り出していても、うまくいかないことが多いのですね。

 私は物を作ることが好きで、他の人がやっていることは絶対にやりたくないと思う方なんです。今の話のように、金儲けには縁がないのでしょうね(笑)。

 自社ブランドの製品を作るようになって、いままで少なかった販売に対するご苦労もあるのではないかと思うのですが・・・

 本社内にショールーム(右写真)を設けて、直接いらしたお客様にご覧いただいて販売しています。それ以外に、全国の望遠鏡などの販売店にも私が直接足を運んでいます。しかし、無理に商品を売るのではなく、より多くのユーザーの方にミヤウチの商品を知ってもらう場所を作って欲しい思っています。
 ある雑誌の調査によると、小学生や中学生の時にいちどでも天体望遠鏡をのぞいたことがある人の中で、大人になってからも望遠鏡を使っている人がどのくらいいるかを調べた結果、全体の1%未満だというのです。このままではこれから天体望遠鏡を買ってくれる人達がいなくなってしまう。天文ファンの下の層を育てていかなければいけない。そこで、SC60i(左写真)という正立天体望遠鏡を作ってみました。双眼鏡用としてあった部品を組み合わせて、手軽に使うことができる望遠鏡を作ったわけです。この望遠鏡には「Saturn」(英語で土星)という愛称が付いているのですが、いままでは倍率が22倍と40倍しかなく、これでは土星の輪が見えないというユーザーさんからの声があり、去年の8月から80倍のアイピースも発売するようになりました。

 普通に売られている天体望遠鏡の売り方とまったく反対の発想ですね。このような実用本位の望遠鏡が多く世に売り出されると、きっと望遠鏡の世間での見方も変わってくるかもしれませんね。
 では、これからのミヤウチの製品についてお聞かせいただけますか?。

 今の「Saturn」の場合は片目でしか星を捕らえることができないのですが、片目ではどうしても長い時間見続けることができないんですね。そこで、多くの方からの要望をうけて、両目でかつ高い倍率で天体を見ることができる双眼望遠鏡を作ることを考えています。しかし、倍率を高くすることによって左右の目の光軸の狂いが大きくなってしまいます。要望として多いのが、センターフォーカス(編注:ピントあわせを中央の回転部分を回すことにより両目を同時に合せることができる機構)にして、アイピースも市販のアイピースが使えるようにして欲しいというものですが、市販のアイピースはそれ自体の光軸のズレがあるため、実際には専用品を用意することになると思います。

 かなり実現に近づいているような感じがしますね。これからも良い製品を私たちに提供してください。

 お話しを伺ってから、工場の中を案内していただきました。

いろいろな太さのいろいろな材質のパイプ

精度の必要な穴明け加工も

ミヤウチ双眼鏡の美しさはこの手から

塗装前のパテ埋めも手作業

ヒドロナリューム合金の美しさを
引き出す水研ぎ作業

塗装がついてはいけない箇所は
マスキング

焼きつけ塗装を行う焼きつけ窯 年季を感じる

塗装が終わった美しい部品たち

ミヤウチ・シルバーの吹きつけ作業

塗装後の鏡胴

組立中の10cm・14.1cm双眼鏡

毎年定期的にオーバーホールに帰ってくる
ものもある大切に使われている証拠

納得がいくまで最良のポイントを探す

最終検査は必ず人間の目で

ガス入れ・出荷を待つ双眼鏡

アイピースなど付属品も梱包されている

設計室

梱包・出荷室

窓際に並べられた小瓶・・・
中には余った小さなネジがたくさん!

 このように、1台1台が手作りで生産されています。レンズもプリズムもみんな同じようなものに見えても、実は1個1個に個体差がある。機械で流れ作業での生産では、その光学系で最良の状態を出すことができないことを知っている職人ならではの技術と経験が、ここでは生かされているのだと思います。

 日本の光学製品のレベルの高さは、こうした地道な努力の積み重ねで得られた物なのではないでしょうか。

ミヤウチ双眼鏡の部品たち どこの部品だかわかりますか?

 生産から出荷までをこの工場内ですべてできるよう、たくさんの設備が備えつけられています。あまりに設備がたくさんあるため、設備だけをこちらのページにまとめてみました。


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