●ギリシャ神話 〜農牧の神パンの笛〜●

 やぎ座に描かれている山羊は、上半身は山羊・下半身が魚という奇妙な姿で描かれています。これは、巨神(怪物)テュフォンが酒の神ディオニュソスの主催する神々の宴会が行われている最中に突然現れて火を吹き、集まっていた神々は次々に姿を動物にかえて逃げようとしました。そのとき、農牧の神パンが下半身を川に浸したまま化けようとしたため、このような姿になってしまいました。その姿があまりにも面白かったので、大神ゼウスが天にあげて星座にしたと言われています。

(一節によると、山羊に化けたのはディオニュソスだとも言われていて、この説とは矛盾しています)

 パンは、アルカディアの森に住む森や山に住む牧羊や羊飼いたちの守護神で、日々野山をめぐってはニンフたちと踊ったり音楽を楽しんだりしていました。その中にシュリンクスというかわいいニンフがいました。シュリンクスは、パンと共に野山を守っていたサチュロスにもたいへんかわいがられていましたが、月の女神で処女神でもあるアルテミスに厚い信仰をもっていたため、神々の誘いにのることはありませんでした。

 ある日、シュリンクスはアルテミスと一緒に猟に出かけました。その様子は2人ともそっくりで、アルテミスと美しいニンフの噂はアルカディアの森じゅうに広がりました。その猟を終えてシュリンクスが帰る途中、パンはシュリンクスに声をかけました。しかし、シュリンクスはパンの誘いになど見向きもせず、走ってその場を去りました。しかし、パンはかわいいシュリンクスを我がものにしようと追いかけてきました。必死で逃げるシュリンクスにいまにも襲いかかりそうです。

 シュリンクスが川に差しかかると、友達の水のニンフに出会いました。水のニンフは、必死に逃げるシュリンクスを追いかけてくるパンを見て、シュリンクスに手を差し伸べました。すぐ後ろからはパンがものすごい形相で近づいてきます。水のニンフは、シュリンクスを川の中の葦原の中に隠しました。その瞬間、パンは「ぐいっ」とシュリンクスを抱き締めようとしました。しかし、その抱き締めたものはシュリンクスではなく、そこに生えていた葦だったのです。


シュリンクスを吹くパン
 シュリンクスは、無事にパンの手から逃れることができました。体力を使い果たしてしまったパンは、シュリンクスだと思って抱き締めた葦を抱き締めたまましばらく動きませんでした。そこにどこからかそよ風が吹いてきて、抱えていた葦に吹き込むと、そこから不思議な音が流れ出しました。音楽が好きなパンは、その葦を切りそろえてきれいに並べてきれいな音がする楽器を作ってしまいました。そしてその楽器に「シュリンクス」という名前を付けて、毎日楽しそうに吹いていたということです。この楽器は、後に「パンフルート」と呼ばれ、現在でもその形を見ることができます。
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