消失してしまった
LINEAR彗星
(C/1999S4)

 アメリカ・リンカーン研究所の地球接近小惑星(LINEAR = Lincoln Laboratory Near-Earth Asteroid Research)プロジェクトチームが、昨年9月27日に発見し、今年7月に明るくなることが期待されていたLINEAR彗星(C/1999S4)は、残念ながら期待されたほど明るくならず、7月26日に近日点(彗星の軌道上で太陽に一番近いところ)を通過したあと、彗星はバラバラになって消失してしまいました。
 この彗星を各国の天文台やアマチュアが撮影した画像を集めてみました。

(CD-ROM版では、各画像はクリックすると拡大することができます)

6月24日
 アメリカ ニューヨーク州 Tony Cecce氏

 なかなか明るくならずに彗星ファンをやきもきさせていたころの画像。アメリカのアマチュア天文家が50cmF4.8反射望遠鏡で撮影した画像です。まだこの頃は分裂や消失の話はでていませんでした。

7月5〜7日 ハッブル宇宙望遠鏡

 この画像が発表されたのは、各国の天文台や研究機関が分裂について発表しはじめた7月下旬でした。

 この画像では、分裂というより爆発的な変化により彗星のコマが小さくなっていく様子がわかります。

Space Telescope Science Instituts(STScI)/HST Public Page
http://oposite.stsci.edu/

7月17日 すばる望遠鏡

 日本がハワイに建設した世界最大の1枚鏡による望遠鏡「すばる」でも、この彗星が撮影されました。頭部を大きく拡大したもので、この画像から美しい彗星の姿として見受けられます。このとき、彗星の内部ではどんな変化が起こっていたのでしょうか。

すばる望遠鏡HomePage
http://SubaruTelescope.org/j_index.html

7月19日 田名瀬 良一さん(三重県阿山郡)

 12.5cmの屈折望遠鏡で撮影した30秒露出の画像を27枚も合成して作成した美しい彗星の姿です。望遠鏡で見たときの彗星の姿に良く似ています。

7月22日 吾妻 秀一さん(長野県野辺山高原)

 200mmのカメラレンズで撮影した写真です。このころは肉眼でも確認できるはずだったのですが、実際には双眼鏡や望遠鏡がないと見つけることはできませんでした。それでも、彗星らしい美しい姿を見せてくれていましたね。

-dp-AZUMA HomePage
http://www.t3.rim.or.jp/~azuma/

7月26日 INSTITUTO DE ASTROFISICA DE CANARIAS

 スペイン領カナリー諸島のラ・パルマにあるINSTITUTO DE ASTROFISICA DE CANARIAS(カナリヤ天体物理研究所)のJacobus Kapteyn Telescope(口径1m)による画像。同所のMARK KIDGER氏が、近日点通過の7月23日から27日までの画像から、彗星のコマ(中心部)が崩壊し、今後彗星が消滅してしまうだろうという見解を発表しました。
 23日から24日までの画像からはコマ部分に強い集光が確認されるのですが、25日にはこの集光が長く延びているのが確認され、27日にははっきりとわかるコマが存在しなくなっているということです。右の画像は26日に撮影されたもので、コマ部分が長く延びていることを示しています。

INSTITUTO DE ASTROFISICA DE CANARIAS
http://www.iac.es/

8月1日 千葉県我孫子市の市街地より

 千葉県我孫子市の岸野 正栄さんの協力で編集部船本もいっしょに撮影したもので、22.3cmF4反射望遠鏡と冷却CCDによる画像です。岸野さんのお宅は市街地でたいへん光害のはげしい場所なため、西の空に低い彗星はかなり散乱光の影響を受けていますが、はっきりその姿を見ることができます。
 この画像には比較星の光度を書き込んであります。ぼやけてしまった彗星全体のイメージは、この時点で11〜12等くらいまで暗くなってしまっているようですね。

8月3日 ハッブル宇宙望遠鏡

 東京 三鷹にある国立天文台の社会教育用公開望遠鏡(50cmカセグレン)により撮影された画像 すでにコマが薄くなり、全体がぼやけた状態になっていることが確認できます。国立天文台からは、この画像の発表時に1996年に出現したTabur彗星(C/1996Q1)にも同様の事例があったことを発表しています。

国立天文台 
http://www.nao.ac.jp/

8月5日 ハッブル宇宙望遠鏡

 このころになると、拡大率の大きな画像ではこのように分散したコマが見られるようになります。特にこのハッブル宇宙望遠鏡の画像には、彗星の進行方向の後ろ側に無数の分列したコマが見られ、あたかも小さな彗星の群れのように見えています。
 彗星は近日点を通過して太陽から遠ざかっていますから、彗星の進行方向に尾が延びることになり、地球上で起こる現象のように進行方向の後ろ側に尾が延びるのではないため、ちょっと違和感がありますね。

Space Telescope Science Instituts(STScI)/HST Public Page
http://oposite.stsci.edu/

8月8日 ESO

 ヨーロッパ諸国が共同で運営している、南米チリのパラナルにある天文台 European Southern Observatory が、複数の望遠鏡を組み合わせたより高度な観測を目的とした望遠鏡計画 VLT (Very Large Telescope)のうち、すでに完成している1号機ANTUで撮影した画像です。細かく分かれた彗星のコマがガス状の物質に包まれている様子がわかります。赤フィルターを付けての撮影とのことで、見た感じコンピュータによる画像復元を施してあるようです。

European Southern Observatory 
http://www.eso.org/



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