●質問● 教えていただけないでしょうか? 千葉県安房郡 鵜田 豊さん |
●回答● スタークリック!編集部 |
地球からの距離がそれほど変わらないはずの月や太陽が、地平線から登ったり沈んだりするときに大きく見えるのは、みなさん不思議に思われる現象ですね。このご質問を受けたのは3月21日で、その前日は満月でしたから、ちょうど夕方の東の地平線から昇ってきた赤い月を見て、すごく大きく見えたのでそう感じたのでしょうか?。 まずは、実際に大きさが違うのかを確かめてみましょう。5円玉や50円玉と定規を使って、昇ってきたばかりの月とその数時間後の月の大きさを計ってみてください。目もとに定規の先端を当てて月の方向に向けて、定規の上で硬貨を滑らせて、穴の大きさに月がすっぽりはまるときの目と硬貨の距離を計ってみると、まったく同じであることに気がつくでしょう。つまり、大きさは変わっていないのです。 |
ではどうしてそう見えるのでしょうか。これは、人間の目のもつ遠近感による錯覚なのです。地平線から昇ってきたばかりの天体(これは月や太陽に限らず、星座の星たちの距離でも同じです)は、地上にある風景の「向こう側」にあるように見えます。 人間には距離感というものがあります。2つの目の位置の違いによる「視差」や、木や建物と言ったすでに大きさの分かっている物の見かけの大きさの違いから、だいたいの距離を計ることができます。例えば上の左の図を見てください。ビルや木の間隔や、左側にある道路の向こう側までの距離はだいたいつかむことができるでしょう。これが人間の持つ「距離感」というもので、視覚から得ることができる人間の優れた能力のひとつです。 これによって地上の風景は距離をつかむことができますが、約380,000kmもある月までの距離は、人間の目ではその距離をつかむことはできません。ですから、天体の手前に映りこんでいる風景から得られる距離感によって、そのはるか向こう側にある天体がとても大きなものに見えてしまうわけです。 しかし、空の高いところにあるときはその距離を比較する地上物から大きく離れていて、大空のなかの一部のように見えるため、とても小さく感じてしまうわけです。右の図のように大きく開けた場所では、昇っていく月もあまり大きく感じられないのです。 では、プラネタリウムでの太陽や月はどうでしょうか。プラネタリウムでは、ドームに映し出された風景と天体が同じ平面上に映っていますから、今描いたような「遠近感」を感じることはできません。ですから、そこに映し出されている地上の風景より大きく見えるようなことは無いわけです。 また、太陽が海から昇ったり沈んだりするときにいびつな形になって見える現象もあります。これは、海水の温度変化などによって海水近くの大気が異常な屈折をおこすことにより見られるものです。日本では主に日本海で春先に良く見られる蜃気楼(しんきろう)も、これと同じ理由により起こるものです。 今回の本題とは少し離れますが、実際には、月と地球の距離は微妙に変化しています。月は地球のまわりを約27.3日かけて一周します。この公転軌道はまん丸ではなく、すこし歪んだ楕円形をしています。また、地球と月の重力以外に太陽の重力も関係してくるため、一回の公転ごとに微妙に軌道が変わってくるのです。しかし、その変化量はわずか約5%しかありません。ですから、私たちが肉眼で月を見たときには、その違いはほとんどわかりません。ちなみに、今年は7月2日に最も近くなります。 |