星食のお話をする前に、天文現象で言う「食」についてお話しておきましょう。文字通り、天体が「食べられる」現象のことをいいます。もちろん、誰かが星をパクパク食べてしまうわけではないので、何らかの自然現象が起きるわけです。 有名なところでは、「日食」や「月食」があります。日食は、地球からの見かけ上太陽の方向に月が入り込んでくることによって、太陽が月に隠される現象ですね。月食は、太陽の光によって照らされている月が、地球の陰の中に入ることによって見えなくなる現象です。これらの「食」は、宇宙空間での位置関係が相互に直線上に並ぶことによって、遠方にある天体が隠されることを差しています。今年は7月16日に皆既月食が日本で観ることができます。 |
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一方、「星食」と呼ばれる現象があります。別名「掩蔽」(えんぺい)とも呼ばれるこの現象は、日食と同じ仕組みで月がその向こう側にある星を隠す現象を言います。もっと広い意味では、月以外の太陽系の天体にも適応されます。ですから、惑星や小惑星などにより、それより遠くにある星を隠してしまう「掩蔽」もあるわけですね。 月は地球のまわりを約一カ月かけて公転しています。それは地球上から見ると、天球上を少しずつ移動しているように見えることになります。ですから、その日・その時間で月の見える場所は少しずつ違っているわけです。 天球上を移動している月と見かけ上同じ位置に他の星が重なる場合に、月による「星食」がおきます。月がその星の前を通過することにより、星が隠される現象です。月のどの場所に隠されるかにもよりますが、長くて1時間くらい隠れている時間があります。 |
今回の星食は、日が沈んだ後の西の空に残った月が、くじら座のμ(ミュー)星(4.4等星)を隠します。4等星の星食は今年は数多く見ることができますが、その中でも今回は比較的よい条件で見ることができます。 東京では18:54分頃に、札幌では18:32頃に月の照らされていない側から隠される様子をみることができます。再び月の後ろから出てくるときは月の明るい側からになるので、出てくる瞬間を見ることは難しいかもしれません。 |
しかしこの星食は、房総半島と瀬戸内海を結ぶ線より南側の地方では、月はくじら座μ星をかすめていくだけで隠される現象を見ることはできません。これは、月の見掛け上の位置がその地方によって違うために起こるわけです。 また、その隠されるか隠されないかの境界線上の場所では、「接食」という現象も見ることができます。接食とはこの星食のスペシャル版のような現象で、月の縁が星をかすめていくものです。月は表面がクレーターなどにより凹凸があるため、ギリギリのところをかすめた場合、その星は凹凸に隠されたり出てきたりしてちかちかと明滅するわけです。 |
紫がかった地域では星食を見ることができ、黄色の線上では接食が観測できます 黄色の線上をクリックすると、観測地周辺の詳細図が表示されます 詳細図:大阪周辺 伊賀 鈴鹿 三河 新城 家山 静岡 伊豆 館山 関西より西の地方では太陽が沈んでから間もないため観測は難しいかもしれません |
特に今回の接食は、月の暗い側(影のある側)で起こることや、月があまり大きくない(明るくない)ため非常に良い条件で見ることができます。上の図の黄色の線上の場所では接食として観測することができ、それより北側の紫のかかった地域では星食として観測できます。南側の地域では、月にレグルスが隠される様子は見ることができませんが、月のすぐ近くを通過していく様子を見ることができます。 星食の観測は、月と星の明るさの差が大きいため肉眼では見ることができませんが、8cmクラスの小型の望遠鏡でも月の影の部分に星が「ふっ」と消える瞬間を見ることができます。星食をはじめとした「食」は、とてもライヴ感覚のある天文現象なので、一度見てみるととても感動するものです。皆さんも是非見てみて欲しいと思います。 |
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