公開天文台・プラネタリウム紹介 Part 5

文・写真 スタークリック編集部 S.Funamoto

 東京・渋谷と言えば、若者が集まる街として全国的に有名です。ここ渋谷には、プラネタリウム界の殿堂。天文博物館 五島プラネタリウムがあります。来年3月惜しまれながらも閉館が決まった五島プラネタリウムを今回取材することにしました。

 五島プラネタリウムは、JR渋谷駅を中心に忠犬ハチ公の銅像やセンター街・道玄坂とは反対側、宮益坂側の駅の向かいにある、東急文化会館の8階にあります。JR渋谷駅からは通路を使ってそのまま入ることができます。

 エレベーターで8階に上がると、広いホールと受付があり、右側には天文グッズや書籍・天体望遠鏡などを販売するミュージアムショップがあります。

 正面の入口をはいると、直径18メートルのドームの中に入ることができます。ドームの中央には、黒い大きなかたまりが鎮座しています。これが、1957年ドイツツァイス社製のツァイス4型プラネタリウムです。

画像をクリックすると拡大します。機械のディテールをじっくりご覧ください

ドーム入口にある創設者 五島 慶太氏と
ツァイスのプラネタリウム責任者
 パウエルス フェルト氏の写真

 五島プラネタリウムの歴史は、1953年(昭和28年)、当時大阪市立電気科学館にしか無かったプラネタリウム(ツァイス2型 大阪市立科学館に保存展示中)を東京にも作ろうということから、学術会議議長 茅 誠司氏・東京天文台長 萩原 雄祐氏・国立科学博物館長 岡田 要氏を中心とし、「東京プラネタリウム設立促進懇話会」が創設されることからはじまります(戦前には有楽町の東日会館に大阪ツァイス2型によるプラネタリウムがありましたが、戦争で消失してしまいました)。

 1955年、当時の東京急行電鉄(現在の東急電鉄)会長の五島 慶太氏にプラネタリウム設置を依頼。渋谷に建設される東急文化会館に設置されることが決まりました。

 1956年、ドイツの光学機器メーカー カールツァイス・イエナ社にプラネタリウムを発注。翌57年1月から組立を開始し、同年4月に開館。以来43年間、全国のプラネタリウムの先駆けとして天文普及に大きく貢献してきました。

 今回は、学芸課長の増沢 等さんに案内していただきながら、プラネタリウムのいろいろなしくみについてお話しいただきました。

増沢さん:このプラネタリウムのドームは、水平に設置された直径18mのもので、傾斜式のものにくらべて星空を見上げるという意味でとても自然な感覚でみることができます。また、大きな丸天井は歪みの少ない自然な星空を映し出すことができます。

 ツァイス4型は、このような大型ドームに対応したプラネタリウムで、五島プラネタリウムにあるものはその記念すべき第1号機です。このツァイス4型を元に、国内の光学機器メーカーがこぞって自社製品を開発し、現在各地にあるプラネタリウムを次々と製作していくことになるのです。

増沢さん:ドームの地平線にあたる部分には、「スカイライン」と呼ばれる地上の風景が切り絵状に貼り付けられており、星空に生える立体的な風景を見ることができます。このスカイラインは開館時の43年前から変わっていません。8年前にドームスクリーンの張替を行った際に、このスカイラインも作り直そうという話しがあったのですが、結局そのまま残されました。そのため、スカイライン部分のスクリーンはそのまま張り替えられなかったため、それより上の部分とスクリーンの色が少し違うのがわかります。

切り絵状のスカイライン
クリックすると拡大画像になります

投映中のツァイス4型プラネタリウム

太陽・月投映機 クリックすると拡大します
月投映機が回転している様子の拡大画像QuickTimeムービー WindowsAVIムービー

 ツァイス型プラネタリウムは、南天・北天の恒星球(いちばん大きな2つの丸い部分)から星空が投映されます。この球と回転軸との間には、太陽や惑星・月の投映機が配置されています。また、特に明るい恒星は、恒星球とは別に投影するため専用の投映機がついています。

惑星投映機 クリックすると拡大します

恒星球のシャッター 丸い筒の中には水銀が入っていて、天体が地平線の下に入ると重みでシャッターが閉じるしくみ

クリックすると拡大画像になります

恒星球の付け根にある円盤状の部分には、一等星などの輝星投映機と天の川投映機がついている

クリックすると拡大画像になります

プラネタリアンのあこがれ 解説台

コンソールの全景 左の丸いものは星座絵投影機
クリックすると拡大画像になります

ドイツ語で書かれた説明
クリックすると拡大画像になります。


 星空を指し示すポインター

 このプラネタリウムは現在のもののように自動で星空を投映するものではなく、全て設定を手動で行います。星空を自由自在にあやつる解説台は、プラネタリウムファンあこがれの場所です。コンソールにはたくさんのつまみやレバーが設置されています。これらを操作することで、プラネタリウムの動きをひとつひとつ微妙に調節することができるのです。

増沢さん:コンソールの表示はすべてドイツ語でかかれているので、私もよくわからないのですが(笑)、暗やみで操作しますから、結局体で覚えてしまうしかないわけです。

 これが解説台にある星座絵の投映機です。

増沢さん:これには、最初からほんとにたくさんの絵がついてきているのです。有名な星座というと、トレミーの48星座ぐらいですけれど、ひとつの同じ星座でもいろいろなデザインの絵がついてきているんです。普段はは使わないですけれどね。それから、たとえば星座のいろいろな部分に対する呼び名の星座絵もついているんですよ。高松塚古墳に描かれていた四神(編注:中国の神話に出てくる方角をあらわす4つの神)なども入っているんです。当時はそんなものに興味を持つ人はいなかったとおもうのですが、すでにそのときにこういうものが入っていたということがすごいですよね。

 カール・ツァイスはドイツのメーカーですから、このような日本の神話などとは程遠い関係にあるはずなのに、不思議な感じがしますね。

全天に一度に星座絵を投映するときは、恒星球の先の小さな投映機を使う

星座絵投影機を開けたところ
クリックすると拡大画像になります。

星座絵投映機から出ているはくちょう座の姿
(中央の光っている形に注目)

 開館当時から使われているものとして、プラネタリウム本体の他に、付属の特殊投映機として、全天投映機(全天に星座絵や星座名などを投影する機械)・太陽系投映機(太陽系の天体の動きを説明するための投映機)・流星投映機などが設置され、これらはドームの周辺部に設置されました。

増沢さん:その後も、日月食投映機やスライドプロジェクター・ビデオプロジェクターなどの付属投映機を増やしていきました。基本的に直接お客様に解説をしていますから、その話す内容を理解するのには星空だけではわかりにくいので、スライドを使って原理を示すとか、具体的な写真を写す必要があるわけです。さらに止まっているものより動いている絵の方がわかりやすいですから、ビデオを映すとか、ズームをするといった、演出的な部分でだんだん投映機が増えてきたんですね。
ところが、こうなると置場所に困るのですね。現在は座席がひとつの方角に向いているプラネタリウムが多いですが、ここは同心円に座席がありますから、すべての方角からお客様に見えてしまうため、お客様に邪魔にならないよう、スカイラインに隠れるように上の方に置いています。

太陽系投映機(右の4つの筒が出っ張っているもの)と全天投映機。レバーで解説員が手動操作する
クリックすると拡大します

流星投映機 クリックすると拡大します

 五島プラネタリウムは天文博物館でもあるため、館内の展示物も大変充実しています。

増沢さん:開館当時からたくさんの展示物がありましたが、少しずつ内容を入れ換えたり新しいものを取り入れたりしています。
この天球儀も開館当時からある貴重なものです。ところどころ剥がれてしまっていますが、今はない星座も描かれていて面白いですよ。

 どれどれ・・・探してみると、さそり座の南に「つぐみ座」があったり、おうし座の背中に虫が1匹。"Musca Borealis"と書かれていますから、「北のはえ座」?。

 天球儀はロビー正面のドーム入口左側に展示してあります。是非皆さんも見慣れない星座を探してみてください。

 天球儀の向かいには、世界の天体望遠鏡の模型があります。開館当時最も大きな望遠鏡だったヘール天文台の5m望遠鏡や、岡山天体物理観測所の181cm反射望遠鏡。ハーシェルが作った望遠鏡や、日本で江戸時代に使われていた望遠鏡もあります。

増沢さん:これも開館の頃からある展示です。今年閉鎖された堂平天文台の91cmの模型は、広瀬秀雄先生の退官記念の貴重なものです。
昔の模型っていうのはほんとに良くできていますよ。きっと今同じ物を作ろうと思ったら大変なお金がかかりますよね。



右上:展示全体 最新の望遠鏡は写真展示されている

左下:アメリカ パロマ山のヘール天文台5m望遠鏡の1/50模型

右下:今年閉鎖された国立天文台堂平観測所の91cm反射望遠鏡の模型

3枚ともクリックすると拡大画像が表示されます

左:故 野尻 抱影氏より寄贈された天文図

クリックすると拡大します

右下:中国と日本の星座の対比を紹介した展示 右下に見える黒い球は中国の星座をもとにした天球儀

 館内に野尻 抱影先生からの寄贈品が多数展示されているようですが、野尻さんとの思い出などはありますか?

増沢さん:そうですね。野尻先生はいつもちゃんと和服を着ていらっしゃいました。当館の学芸委員をつとめていただいていましたから、星の会(編注:五島プラネタリウムの会員制のサークルで、毎月1回専門的な内容の講義を受けられる例会に参加できる)の例会にも毎年いらしていただきました。眼鏡をかけていて、すこしすら〜っとした感じでしたね。今は野尻先生と言っても解らない人が多くなりましたが、星のことをいろいろ調べながら天文の普及を長年やってこられて、100冊以上の本を残されています。なにより星が好きだったのでしょうね。星の名前とか星座の研究と普及に一生をささげた方ですね。


野尻 抱影氏の代表著 日本の星

 上:隕石の展示 世界の隕石や隕石孔のことなどを実物と合せて展示

 右:シーロスタット望遠鏡 屋上に設置された太陽望遠鏡から、太陽光を導いてスクリーンに投射する。太陽黒点の様子や太陽のスペクトルをリアルタイムで見ることができる。

左:アストロラーベ

クリックすると拡大画像が表示されます

現在の星座早見盤のもっと正確なもの。小型のものは航海などの用いたとされている。

増沢さん:1992年のインド日食のときに、村山館長がおみやげとして買ってきたものです。文字がアラビア語なため書かれている内容については今もわからないのですが、ここまで大きなものはあまりまかけません。たぶん、これは教材や飾りのものではないかと思います

館内を案内していただいてから、増沢さんと学芸員の木村 かおるさんにお話しをお伺いしました。

編集部:この仕事をはじめるようになったきっかけは何でしょうか?。

増沢さん:私は長野の豊科というところに住んでいたのですが、ここはとても星がきれいで、子どもの頃から星に興味を持っていたんです。ですから、ずっとこういう仕事に就きたくて、学校出てからすぐにここに入りました。

木村さん:私は最初から星を見るのを好きだったというわけではないのですが、小学校にあがったときに買ってもらった図鑑を見たときに、良くある星空を現したカマボコ型の絵が載っていて、そこに書いてある星の並びを覚えて、夏休みの宿題というとよくそれを写して出していました。その時に読んでいた本がどうやら野尻先生の本だったらしいです。私は当時東京の練馬に住んでいて、両親が共働きだったので、夏休みはおばあちゃんに連れられて新潟のいなかにいっていたのですが、夜は熊が出るから外に出ちゃいけないって言われていたんですけれど、たとえば花火をやるからって外に出てみると、天の川やさそり座とか良く見えるじゃないですか。そこから興味を持つようになって、星に親しんでいきました。

編集部:増沢さんはこちらで解説員をされて33年ということですが、昔と変わったことはなにかありますか?。

増沢さん:アポロ宇宙船のころは、皆さんの感心が宇宙に集まっていたのでしょう。とてもお客さんの数が多かったですね。そして、ボイジャー探査機が木星や土星の画像を送るようになったころが2つめのピークでしょう。それまでは地上から望遠鏡で見ていたものが、宇宙空間に出かけて行って情報量が格段に増えたことは、私たちにたくさんの興味を持たせてくれたと思います。この数十年間の進歩が、いままでの人間の歴史の中でも最もたくさんの宇宙のことが解った時代ではないかと思います。そういう時代を体験できたことは幸せだったと思いますね。

編集部:これは私の個人的な思い入れもあるのですが、例えばボイジャーが私たちに見せてくれた惑星の画像を見たときに「おおっ!」と感動したものが、今だったらハッブル宇宙望遠鏡の画像を見ても、あまり感動しないことがあるような気がするのですが・・・

増沢さん:慣れすぎもあるかもしれないですね。昔は何を見ても感動があった。でも、やはりいろいろな天文現象を見るとやはり凄いなと思いますね。例えば、去年・一昨年としし座流星群が話題になりましたよね。知識のあるないにかかわらず楽しめる現象。そこにいるだけで感動できる。一枚の写真をみるより感動しますよね。それで良いと思うんですよ。いっしょに感動する。「すごかったねー」。感動を共有する。
まぁ、天文や星を趣味とするのはほんの一部分だと思うのですが、花や鳥でもいっしょですよね。きれいなめずらしい花を見るために、高い山に登って苦労して見に行く。どんな大変な思いをしても実際に目にすることによって感動を得る。意外とそういうことを知らない人がいることも事実ですよね。

編集部:これまで、五島プラネタリウムはそういう星に興味を持ってくれた人が最初に足を運ぶ場所のひとつとしてその役割を果たしてきたと思うのですが、来年閉館ということになってどんなお気持ちですか?。

増沢さん:それはもちろんとても残念です。けれど、現在は各地にたくさんのプラネタリウムや天文台など星と接する場所ができたわけですから、それぞれの各館に頑張って欲しいと思います。解説のしかたや番組の作り方はいろいろ合って良いと思うんですよね。動きのある部分あり、静かな部分あり、またほっとする部分が合ったり。こうでなくちゃならないとかいうものは無いと思います。迫力のある映像や3Dとか、もちろんそればっかりではついていけないでしょうけれど、演出の方法としてそういうのも一つありますよね。

木村さん:これからのプラネタリウムは、それぞれの館の目的をはっきりもって、たとえば子ども館なら子ども向けプラネタリウムをどう使うかということを考えて欲しいし、その館が特徴を持つようになってほしいですね。そのためには番組を買ってきて流すだけではなく、いかにその地域の人達にどうやって使ってもらうのかということをそこにいる人が考えて欲しいと思います。

 今回、閉館を前にした五島プラネタリウムを取材するにあたって、いろいろな思い出が脳裏をよぎりました。私がそうであったらように、五島がなければ星に興味を持たなかったという人もいると思います。また、いま天文を職業にしている人達の中にも、いちどは五島にきて、様々な知識と刺激を受けてきたとと思います。

 来年、五島プラネタリウムは閉館しますが、その後もここで生まれてきたたくさんの知識・たくさんのノウハウ・そしてたくさんの思いは、人々によって受け継がれていくはずです。また、受け継いで行かなければならないと思います。

 「いっしょに感動を共有できる場所」。天文施設がこれからもそういう場所であり続けて欲しいと、今回改めて感じさせられました。

天文博物館 五島ブラネタリウム 所在地

〒150-0002 東京都渋谷区2−21−12 東急文化会館8階
 TEL : (03)3407-7409
 HomePage : http://www.f-space.co.jp/goto-planet/

毎日の投映時間 各回約60分

火曜〜金曜
13:30〜 15:00〜 16:30〜 18:00〜

土曜・日曜
10:30〜 12:00〜 13:30〜 15:00〜 16:30〜 18:00〜

土曜の18:00〜の回は「星と音楽の夕べ」
 6月 クラシック小品集
 7月 ルロイ・アンダ−ソン 作品集
 8月 地球(ほし)のメロディ ―biosphere・MAGNET 特集―

日曜の10:30〜の回は「やさしい星空教室」
 小学校低学年向けの話題
 6月 リニアすい星がやってくる
 7月 夏の星座と七夕ものがたり

プラネタリウム
観覧料

大人
\900

子ども
\500

「子ども」は4歳〜中学生

番組の予定

6月
20世紀最後の肉眼彗星!?―リニア彗星地球に接近―

7月
日食と月食−7月16日の皆既月食

イベント情報
天体観望会(無料) 6/11(日) 19:00〜19:30
7/9(日)  19:00〜19:30

Copyright 2000 StarClick! All rights reserved