公開天文台・プラネタリウム紹介 Part 4

 福島県滝根町 星の村天文台

文・写真 スタークリック編集部 S.Funamoto

 福島県滝根(たきね)町は、福島県の浜通り(海岸沿い)・中通り(奥州街道)の中間付近にある人口約5600人の町です。昔から農業が主な産業の町でしたが、昭和44年9月に町内東部の釜山の石灰岩採石場跡から「あぶくま洞」が発見され、昭和48年6月に観光鍾乳洞としてオ ープンして以来、町独自の商品開発や魅力的なイベントを企画するなど、創意工夫を凝らした観光開発で年間60万人を越える観光客を集めているほか、農業・工業・林業・商業と、自然との調和を図りながら豊かな地域づくりを進めています。

写真:滝根町の街灯はこのような星と月をモチーフにしたしゃれたデザインになっている

 「星の村天文台」は、そのあぶくま洞のある釜山にあり、あぶくま洞に観光に来ると必ず目にする建物ととして注目を集めています。今回は、この星の村天文台にお伺いしました

写真:星の村天文台の全景
ドームの裏側の建物がプラネタリウム
手前のループ状の橋は「天地人橋」

 まずは、天文台長を勤められている大野 裕明さんにお話を伺いました。

編集部:
 まず、星の村天文台ができるまでの経緯についてお聞かせいただけますか?。

大野さん:
 現在の「星の村」は、天文台とそれに付随するプラネタリウム・展示室・TAKINE浪漫館の建物からできているのですが、まず最初に、平成3年の7月に天文台ができ、翌年の平成4年の8月に残りの施設が完成して「星の村」として開村しました。言わば滝根町の町興しの一環として作られたものです。天文台には直径6.5mのドームに三鷹光器製65cmカセグレン式反射望遠鏡が設置されています。また、プラネタリウムは60人収容の8mのドームに投影機としてミノルタMS-8が使用されています。日本人としてはじめて宇宙飛行をした秋山豊寛さんを星の村村長として迎えています。

 町興しとしての天文台とのことですが、天文台以外の観光にもかなり力を入れているようですね?。

 滝根町は、人口5600人の町です。昔から入水鍾乳洞というものがあったのですが、現在観光施設として大活躍しているあぶくま洞が昭和44年に発見されたものです。「天に星 地に鍾乳洞 人に愛」てというテーマで、鍾乳洞が8000万年の歳月をかけて作られた地底探検の施設だとすると、その反対に天を探索するものもあって良いだろうという町長の発案で建設が決まったのが、この天文台というわけです。

あぶくま洞と天文台をつなぐ「天地人橋」には、方角ごとに12星座のレリーフが付けられている

 あぶくま洞には年間60万人もの観光客がいらっしゃると伺っているのですが、天文台の方はいかがでしょう?。

 そうですね。あぶくま洞にいらしたお客さんのうちの約1割が天文台にいらっしゃっているというところでしょうか。

 もっと来て欲しいですよね?

 きちんとした数を調べたわけではないのですが、実際には天文台の前までは約半数の方がいらしていると思います。ところが、何がネックになるかというと、ひとつはお天気の問題がありますね。せっかく来ていただいても曇っていては星を見せることはできませんから。そして、天文台の公開時間やプラネタリウムの定員などの問題で入ることができないこともあります。特に夏は、プラネタリウムだけでも1日に10〜12回も投映するのですが、定員が60人ですから、10回投影しても600人の方にしかご覧いただけないわけです。今考えればもっと大きなプラネタリウムをつくれば、もっと稼げたなと思うのですが(笑)。

 それは、逆に他の天文台やプラネタリウムから見たらうらやましい状態ですよね

 良く言われますね(笑)。でもオフシーズンは、逆に1人のお客さんでもプラネタリウムを投影しますし、天文台も公開します。ここの場合は、オンシーズンとオフシーズンの客数の差が激しいので、特に大きな収容力があったほうが良かったかもしれません。

 いらっしゃる方の客層などはいかがでしょうか?。

 ここができた当初はバブルをちょっと過ぎたくらいでしたから、確かに来場者は毎年減ってきているのですが、リピーター(再来者)がしっかりとついてきているという印象ですね。

 リピーターとわかる方はどのくらいいらっしゃいますか?

 天文台にいらしてくださる方では約半数くらいでしょうか。プラネタリウムは鍾乳洞にいらしたかたが昼間にご覧になることが多いので、はじめての方の方が多いですね。地域的には、関東から南東北からの方が多いですね。冬になると、新潟や山形などの日本海側の曇りやすい地域からのお客様がいらっしゃいます。ここ数年のしし座流星群のときは600人くらい集まりましたね。磐越自動車道が開通してとても便利になったことも大きな原因だと思います。
 年齢層は若いカップルが多いというのは大きな特徴でしょうね。カップルが来るということは、それがリピーターになり、やがて結婚して家族を連れてくるようになり、こんどはその子どもが・・・というように家族ぐるみで楽しんでいただけると良いと思いますね。

天文台下にある展示室

星の村会館 白い建物が印象的

 星の村には、天文台などの施設以外に宿泊施設がありますよね?

 星の村会館と星の村ビレッジという2つの施設がありますが、水道まわりの問題などから冬の間は閉鎖しています。
 星の村会館は、滝根町の迎賓館として作ったもので、当初は秋山村長がいらしたときに宿泊する場所として考えられていました。しかし、秋山さんの意向で、部屋を占有するのではなく一般の方にも開放してほしいということで、宿泊施設として使用されるようになりました。予約が多いのはやはり夜間公開の水曜・土曜で、夏休みなどは関東地方の高校や大学の天文同好会の合宿場所に良く使われています。ペルセウス座流星群の季節などは、早い者勝ちで予約が殺到します。
 それ以外にも、町内の宿泊施設に泊まって天文台に来る方もいらっしゃいます。でも、この町そのものが滞在型ではないんですね。昼間の観光客は、近隣に温泉などがあることもあり、夜になると他の宿泊地に出てしまう方のほうが多いのです。

 観光天文台としての役割が非常に大きいわけですね。

 そうですね。町の方針が観光一途ですから、教育関係に寄与しようとする部分も多いですが、それよりは観光施設としていらしたお客様に満足してもらうこと。そして、また来ていただけるようにすることがいちばんの目的になっていると思います。

星の村天文台65cm望遠鏡

65cm望遠鏡全景 メインの望遠鏡の他、太陽観測などに使用する10cm屈折も同架している

望遠鏡を操作する柳沼さん スタッフの方は専門職員ではなく、あぶくま洞などとの兼任しながら、天文に関する知識も身につけている

Hα光干渉フィルタ 太陽活動を目で確かめることができる

天文台の壁にかかれた秋山さんのサイン

65cm望遠鏡が収められた6.5mドーム

三鷹光器製の銘板

65cm望遠鏡で捕らえた天体の画像をこちらのページにまとめてあります。

 ここからは大野さんの個人的なことについて伺いたいのですが、大野さんは、これまでのいろいろな天文に対する活動を評価されてこの天文台の台長さんを勤められているのだと思うのですが、そんな大野さんが星に興味をもつきっかけになったことはどんなことでしたか?。

 私の場合は、小学校5年のときの私の担任が理科系だったのですが、当時学校にあった天体望遠鏡を使って、休み時間に太陽を見せてくれたんですよ。それで興味を持ってのめり込んだのが最初ですね。それまでは顕微鏡を見ているほうが楽しかったのですけれどね(笑)。その後、私の家からは最も近い天文台が仙台市天文台でしたから、高校時代は汽車賃を貯めてよく通った場所です。いまでも、仙台市天文台には頭が上がりません。そこで藤井 旭氏に出会って、その後東京の村山 定男先生とも知り合うようになり、だんだんと多くの人と交流をもつようになってきたのです。

大野さんの著書


天体観測入門

初心者向けに天体観測の方法をやさしく解説した本

立風書房刊 \1,500



見ておもしろい
星雲星団案内

写真ではなく、目で見た星雲星団の姿を紹介した数少ない貴重な本

誠文堂新光社刊
\850

 当時大野さんを中心にして開催していた「星空への招待」というイベントがありましたよね?

 福島県の吾妻山で毎年開いていた天文イベントです。当時マイナーなイメージの多かった天文という趣味を、もっと大きく広める意味ではじめたもので、私たち3人(大野さん・藤井さん・村山さん)とチロ(藤井さんの真っ白い飼犬)が中心になって企画していました。ここで出会ったたくさんの人達のおかげで、今の私があると思っています。

 この天文台は設立の計画の段階から大野さんが関わっていたということですが・・・

 天文台建設の計画の段階で、福島県内で適当な人材がいないかを町長が探していたときに、このような活動をしていた私のことを皆さんが推薦してくださったのです。計画段階から運営まで携わり、そのまま「居着いている」という感じですね。でも、私は嘱託の台長ですから、空気みたいなものです。実際はスタッフとして実行班として動いてくれていますからね。

 「星空への招待」のように、天文のアマチュアを引っ張っていくような動きがだんだん少なくなってきているような気がするのですが・・・。

 そういう牽引者的存在の人はいると思います。でも、今は時代が違うのかもしれません。あのころは、望遠鏡がとても高くて簡単に買える時代ではなくて、みんな望遠鏡を自作してなるべく大きなものを手に入れるような時代でした。そういう一人一人の思いが集まってできたのが「星空への招待」のようなイベントだと思います。例えば、彗星の軌道計算なんかは、あの時代は数学の解るごく一部の人しかできなかったわけで、このようなイベントに参加して専門の先生に直接聞いてはじめて解るという時代でした。それが、今ならパソコンを使えば子どもでも簡単にできてしまう。大きな指導者がいなくても、パソコンが指導者になっているのかもしれませんね。

 なるほど。でも、やっぱり人の繋がりでいろいろなものを得るということもあってほしいかなという気もするのですが・・・

 でも、それもその時代の流れでしょう。私もパソコンには振り回されていますから(笑)これから頑張っていくつもりです。

 ありがとうございました。最後に、この先、星の村天文台をこんなふうにしていきたいという要望のようなものはありますか?。

 基本的にはこのままずっと現状維持というつもりでいます。マイペースでやっていくのもひとつのやり方ですからね。背伸びをしないで行きたいと思います。何か大きなイベントをするということはなく、職員だけでできる程度のイベントを積み重ねて行きたいと考えています。

滝根町星の村天文台 所在地

〒963-3601 福島県田村郡滝根町大字菅谷字糠塚60−1
 TEL : (0247)78-3638
 FAX : (0247)78-3658
 HomePage : http://hoshinomura.town.takine.fukushima.jp/

交通:

JR磐越東線:
神俣(かんまた)駅下車 車で10分

車:
磐越自動車道小野ICから、国道349号線・県道小野・富岡線経由 約15km

利用料金

プラネタリウム

天文台
高校生以上
\400
小中学生
\250
高校生以上
\200
小中学生
\150

プラネタリウムの毎日の投映時間 各回約40分
4月〜8月の毎日
9月〜10月の土曜・休日
10:00〜 11:00〜 13:00〜
14:00〜 15:00〜 16:00〜 
9月〜10月の平日
11月〜3月の毎日
11:00〜 13:00〜
14:00〜 15:00〜
天文台の公開(天候の良い日のみ)
昼間 (火曜以外の毎日)
 太陽観測ができます
8:30〜17:00
夜間 (水曜・土曜のみ) 夏期 19:00〜21:00
冬期 18:00〜20:00

火曜は天文台・プラネタリウムとも全館休業

イベント情報
オーロラ紀行写真展 3月末まで
2月上旬から大野台長がフィンランドへのオーロラツアーに出かけました。その写真記録を館内に展示
メシエマラソン in TAKINE 4月8日(土)14:00 〜 9日(日)10:00
参加料金:1人\1,500 家族2人以上 \2,500  (食事・寝具代などは別途)
「全天に散乱しているメシエ天体という星雲・星団110個のうち何個ガンバって見えるか?」 言うなれば、陸上競技のマラソンの様な競技心を起こし、観察するものです。参加者は60と限定はいたしますが、全国どこからでも参加できます。結果はスカイウォッチャーという天文誌にも紹介されますし、上位者には記念品もあります。今年は第1回目ですが、毎年恒例の観測会とする意向です。天文台では仮眠室も準備してあります。詳細は、スカイウオッチャー3月号と4月号をご覧ください。

大野さんの個人ページ「星のおおのさま」 http://smc.dom.ne.jp/~ohno/

大野さんが撮影されたオーロラの写真などが掲載されています


天文台のおとなり あぶくま洞

 約8000万年という歳月をかけて作られた大自然の造形美。全長600mの洞内は、鍾乳石や石筍など千変万化の神秘の世界が続きます。

料金:高校生以上\1,200
   中学生\800
   小学生\600

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