東京都中野区

バレエダンサー 松谷 研


使用望遠鏡:Tele Vue 140
・口径:140mm
・焦点距離:700mm
・鏡筒重量:7Kg


星をみに山へ行く。観測地に到着、きこえるのはかすかなせせらぎの音、ふくろう、よたか、とらつぐみ、さらに夏ならばほととぎす、秋ならば、鹿の声、すべて静かな自然の音。人工音といえば、時たま夜空を横切る飛行機と山のむこうを行く夜行列車の音くらい。まわりを見廻すと、近くには森と林、遠くには山、そして見上げると満天の星。星をみにきただけではない。こういう自然すべてを感じるために来たのだと思う。

 山の棚田の中で星をみることもある。明るいうちに到着し、農作業をしている人にあぜ道を使う許しを得るために声をかけると、「ああ、いいよ。ここは星がきれいだけど、標高700mあるから夜は寒いよ。大丈夫かい」と心配までしてくれる。ここでは夏は蛙の大合唱と青い稲の葉、秋は虫の声と黄金色の稔りにつつまれて星をみる。そして夏には星と私の間を、蛇行する流れ星ー蛍が飛び交う。田植えのおわったばかりの水面に映る織女・牽牛を眺めたのもこの場所だった。

 棚田の観測地から遠くない所の峠には、旅人の安全を願って地蔵尊が祀られている。この峠で星をみるときには、お地蔵様が見守っていてくれる。到着した時はその夜の晴天を祈り、帰る時には楽しい時間と場所を与えてもらったことに感謝し、帰路の無事を祈って地蔵尊に手を合わせる。ここでみた夏の大三角と冬の大三角が秋の銀河でつながっている星景色は忘れられない。


 海辺で星をみたくなることもある。冬の夜、潮騒をききながら、漁火と競ってきらめくカノープスをみることができれば最高である。

 山ではよく野生動物に出逢う。たぬき、きつね、うさぎ、てん、いたち、むささび、いのしし、鹿、かもしか。秋の夜、星をみている間中、わずか70mくらいしか離れていない所で夫婦の鹿が草をはんでいたこともある。こちらに害意のないことは鹿にもわかったのだろう。コンビニエンスストアのすぐ近くできつねを見て「きれいな女性に化けて、木の葉のお金で買い物をしてきたのかもしれない」とか、月夜にたぬきと猫が一緒にいるのを見て、「猫がたぬきから腹づつみの打ち方を習っているにちがいない」などと楽しい想像をしたこともある。そして、春、暖かくなった頃に出会う動物たちは、やはり皆嬉しそうである。
 真冬のある夜、何気なく近くの木の幹に手をふれて、木が暖かいことに気づいた。木も生きていて、動物達と同じように、内に力を秘めつつ、じっと春を待っているのだろう。しばらくの間、手袋をはずした手でいの生命のぬくもりを感じなら空を見上げ、葉を落とした枝にきらめく星の実を楽しんだ。



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