環状星雲を包む微かなハロー

赤外線で見た深宇宙 すばるディープフィールド

92億光年離れた電波銀河の姿



環状星雲を包む微かなハロー〔環状星雲(M57; NGC 6720)〕
天体名: 環状星雲(M57; NGC 6720)
使用望遠鏡: すばる望遠鏡(有効口径8.2m)、カセグレン焦点
【解説】 こと座にある惑星状星雲 M57(NGC 6720)は、地球から約 1600 光年の距離にあり、その形から環状星雲(リングネビュラ)と呼ばれている。惑星状星雲とは、望遠鏡で見るとコンパクトながら大きさや模様を持ち、一見惑星のように見えることからそのように呼ばれている星雲である。しかし実際は、星が死ぬ間際の姿である。
 この環状星雲は、中心星の周りにドーナツのようなリング(環)を持つ惑星状星雲である。今までの観測から、くっきりとしたリングの周りには微かな光を放射するハローと呼ばれる構造があることがわかっていた。しかしハローは極めて淡く観測が困難であるため、その詳しい構造はわかっていなかった。
 すばる望遠鏡に取り付けた可視光広視野カメラ Suprime-Cam による観測では、高い分解能と大きな集光力により、環状星雲のリングや、特にハローの微細構造をこれまでになくはっきりと写し出すことに成功した。このようなデータから環状星雲の構造だけでなく、赤色巨星からの周期的なガス放出の様子が解明されると期待されている。
【左図】 この図はHα(水素原子が放出する赤い光、中心波長は6563 オングストローム)の輝線を観測した画像に、疑似カラー処理を行ったものである。
 この図から中央に明るく輝くリングは一様ではなく、複雑かつ微細な構造を持つことがわかる。 リングの大きさ(長径)は約0.7光年であり、中に見える2つの星のうち、中心に位置する星が環状星雲を光らせている白色わい星(中心星)である。 リングの外側にあるハローは、今回初めて明瞭にとらえられた。バラの花びらのような多数のループ構造を持つ内側ハローと、その外側に広がる淡い外側ハローからなることがわかる。リングと内側ハローはやや細長い楕円だが、外側のハローはほぼ円形である。ハローの大きさは内側ハローの長径が約1.2 光年、外側ハローの直径が約1.8光年である。内側ハローの中には、さらに小さいループや太く濃いフィラメントと呼ばれる構造がはっきりと見える。またガスが冷えて凝縮して行く過程と考えられている多数の小さな固まり(ノット)が、内側・外側ハローの中に存在しているのがわかる。
 このような2つのハローを構成するガスが放出された時期は、まだはっきりとわかっていない。 従来、環状星雲は球殻から成ると考えられていた。しかしこのような多重のハローの存在から、より複雑な構造を持つことが示された。

【右図】 この図では、3つのフィルターで観測した画像を実際に見える色に近い配色に合成した。ハローは淡くなっているが、リングの微細な構造がよりはっきりと見えるように処理をしてある(最大エントロピー法)。左図では見えなかった細かいフィラメントやシミのような構造があることがわかる。



赤外線で見た深宇宙 すばるディープフィールド
天体名: すばるディープ・フィールド
使用望遠鏡: すばる望遠鏡(有効口径8.2m)、カセグレン焦点
【解説】
 銀河系の円盤に対して垂直な方向は、銀河系内の星や星間塵などが少なく、それらの影響を受けにくいため、はるか遠方の宇宙の観測に適している。特にすばる望遠鏡のあるハワイからの観測の場合、銀河系の北極方向の天体はほぼ天頂を通過する。そのため大気揺らぎによる影響が少ないだけでなく、長時間にわたる観測が可能である。すばる望遠鏡では、このように遠方の宇宙に関する研究を行う特定の領域「すばるディープ・フィールド」を設け、多方面にわたる観測を進める計画である。

 この画像は「すばるディープ・フィールド」の最初のデータである。銀河系の北極の方向、かみのけ座銀河団より約6度東の、一見星も何も見えない領域を、すばる望遠鏡に取り付けた近赤外線カメラ CISCO により2つの赤外線の波長帯で長時間観測し、それらの画像を合成した。その結果、赤外線の広域画像としては、最も暗い天体まで写すことに成功した。

 画像中の青く暗い天体は近傍(約30億光年)にある若い小さい銀河であり、赤色の暗い天体は主に70億光年程度までに分布するかなり年老いた銀河であると考えられる。一方、白色の暗い天体は、100億光年を超える非常に遠い天体であると思われるが、それを確認するためには可視光による観測がさらに必要である。また最も赤い色の天体のいくつかは、塵に覆われたかなり特殊な天体である可能性がある。

 このような赤外線画像は、天体から出た可視光が宇宙膨張により赤方偏移し、赤外線としてとらえられたものである。そのため、100億光年を超えるような遠方宇宙の研究には不可欠な情報である。実際にこの画像に写る暗い天体の多くは、100億光年を超える遠方に位置するものと考えられる。さらにこの中には、可視光では見えない、宇宙の極めて初期に生まれた天体が写っている可能性もある。今後、すばる望遠鏡の可視光の観測装置や赤外の分光装置を用いて個々にとらえられた天体の性質を調べていくことにより、そのような宇宙初期の時代からの天体の形成や銀河の進化の様子を詳しく知ることができるものと期待されている。



92億光年離れた電波銀河の姿
天体名: 電波銀河 B3 0731+438
使用望遠鏡: すばる望遠鏡(有効口径8.2m)、カセグレン焦点
【解説】 電波銀河とは特に強力な電波を発している銀河のことをいい、その中心には活動銀河核と呼ばれる特異な天体があると考えられている。この活動銀河核は太陽より100万倍以上も重い超巨大ブラックホールであり、そこに周囲のガスなどの物質が落ち込むことにより莫大な重力エネルギーを解放して輝いているとされている。しかし周囲を囲むガスや塵の雲のために、活動銀河核を直接見ることはできない。

 地球から92億光年離れた電波銀河 B3 0731+438 の活動銀河核は、相対する2方向にジェットと呼ばれるガスなどの物質を毎秒数千キロメートルもの猛スピードで吹き出しており、その方向にだけ周りを覆うガスや塵の雲に穴が開いている。すばる望遠鏡に取り付けた近赤外線カメラ CISCO による今回の観測では、この穴からもれ出る活動銀河核の強力な紫外線により周囲の水素のガスが励起されて輝いている様子を初めて鮮明に捉えることに成功した。その姿は、2本の腕がそれぞれ2方向に伸びたような特異な形をしていていることがわかる。これは電波銀河を取り囲む水素のガス中をジェットが突き抜けた際、ガスが押しやられて円錐形に空洞ができているためと考えられる。

 今後、中心にある活動銀河核の性質や電波銀河の生成のメカニズムを明らかにしていく上で、重要な手がかりとなると期待されている。



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