機材レポート

               東京都品川区 吾妻秀一 25歳・システムエンジニア


何でもありのシステム
 観望と撮影、両者をつきつめてゆくと機材は2分される傾向にあると思うが、フトコロと移動手段には 限界があるわけでどちらも納得できる機材に到達するのに四苦八苦している方が多いのではなかろうか。 私は本格的に星の世界に足を踏み入れたのは6〜7年ほど前で、もっと長期に渡って経験されてきた先輩方 から見れば未成熟な結論(まだ私自身、結論とは思わない)かも知れないけれど現在の私の万能システム を紹介したい。

  • PENTAX 125SDHF
  • タカハシ EM-200 & メタル脚
  • ノブオ電子 Pyxis


    125SDHF(右)


    EM-200赤道儀


    Pyxis

     私は屈折望遠鏡が好きで所有している鏡筒の殆どが屈折なのだが、架台の強度や持ち運びの際の大きさ、 重量の兼ね合いから12cmクラスが上限と見ている。この125SDHFは fl=800mm/F6.4 と、「やや長めで やや明るい」万能スペックだと思う1本で、アイピースの組み合わせ(バーロー併用等)で低倍率から高倍率 まで得ることが出来る。苦手なのは淡い散光星雲くらいなもので、あとの対象はほとんどカバーできるのでは ないかと思う。20cm、30cm級の大口径シュミカセと比較してしまうと集光力不足がちに感じるが、 高性能なテレビュー製のアイピース(ナグラー・パンオプティック)を2インチミラー併用で使用する限りは 特に不満は無い。
     この鏡筒に2インチミラーの組み合わせは、実は物理的に相性が悪く、一部のアイピースでピントが出ない。 そこで工夫しているのが、ペンタックス純正の2インチアダプターを使用せずにトミー製の2インチスリーブ と2インチミラーをネジ固定し、そのまま鏡筒に装着している。このアダプターの外径がペンタックス鏡筒の ドローチューブ内径とほぼ一致しているのを利用しているのだ。結果、2インチミラーのミラーハウンジング ぎりぎりまで鏡筒に押し込むことが出来るため、ピントが出せなかったナグラータイプII 20mmとパンオプティック 35mmが合焦する。
     しかし難関はもう1つあり、2インチからアメリカンサイズに変換するとナグラーシリーズの短焦点アイピース が合焦しないのである。これもアダプターを工夫し、タカハシ社の拡大撮影アダプター TCA-4 に付属している アメリカンサイズアイピースアダプタを逆さにして2インチミラーへ落としこんで使用する。これはネジ固定用 の溝ぶんスカスカになってしまうのでキッチン用のアルミテープを巻いてサイズを揃えてやった。これらの処置 によって愛用しているテレビューアイピースの全てがスムーズに交換出来るようになっている。
     赤道儀は持ち運びもさほど重くなく、有る程度の剛性があり、組立/撤収が楽(外装部品数が少ない)な タカハシ社EM−200を愛用している。あれこれ機材数が増えてくるとシンプルな作りというのは非常に 有り難いもので、観測場所到着から組み上げまでの時間が短縮できるのは魅力だ。
     また、三脚はメタル脚に限る。グイっと広げれば終わり、撤収も持ち上げるだけ。この簡便さは一度使って みるとやめられない。現在3台の赤道儀を所有しているが全てメタル脚にしているほどだ。
     導入支援装置としてPyxisを使用しているが、なんといってもコントローラーの小ささとディスプレイと セパレートになっているところが気に入っている。撮影時の微調整やファインダーで導入出来る天体の観望時 などディスプレイが不要な場面が半数以上を占めるのだが、不要なときはしまっておけるというのは良い。
     また、無理な超高速でなく100倍速というのは導入精度はもちろんの事、電気系統に負荷がかからない丁度 良い設定だと思う。事実、使用していて遅さにイラつくこともなければ導入ミスも無い。気に入っているので EM−200とビクセン製ATLUXに使用している。オートガイダーやPC接続もシンプルに繋げられるため 手放すことが出来ない。

     


    観望重視のシステム
     観望に力を入れるとやはり口径が欲しい。口径も焦点距離も無制限に大きくできるわけではなくどこかで 妥協しないといけないが、ここはコンパクトかつ口径と焦点距離が稼ぎやすいシュミカセに落ち着いている。

  • セレストロンC8(SC200L)
  • タカハシ EM-1s & EM-2用極軸望遠鏡 & メタル脚


    SC200L


    ナグラーアイピース


    EM-1s赤道儀(木製脚の頃の写真)


    ナグラータイプ2アイピース


    パンオプティックアイピース

     焦点距離2000mmチョイ、口径約200mmと、今となっては驚くほどのスペックではないが、私の好きな屈折望遠鏡 で同じ事をすると大変な事になる(サイズも金額も)。20cmクラスのシュミカセはかなり軽いので赤道儀も 小型のものを選択できる。特にこの鏡筒について工夫している事は無いが、ファインダーは大型の見易いものが いいだろう。私のC8はタカハシ製7×50ファインダーに暗視野照明装置を取り付けて使用している。ファインダー で導入出来る天体の数が増えてくると手動で導入したほうが早いのでファインダーの見易さは重要だと思う。
     特に EM-1s のような自動導入装置が使えない赤道儀の場合は特にファインダーは重要。また、敢えて工夫して いる所を探すとフードだろうか。汎用の巻き付けフードを利用しているが、内側にラバーヒーターを装着してあり、 補正板への夜露付着を緩和している。ラバーヒーターと巻き付けフードは良い接着方法が無く、速乾のボンドを 使っても空調用のシリコンパッキンを流し込んでもすぐに剥がれてしまう。そこで私は植毛紙をフード内面に全面 張っているのを利用し、植毛紙で折り込んで植毛紙のシールで有る程度固定。さらにヒーターのすぐ外側をホッチ キスで留めて補強している。かれこれ1年以上はこの方法で保っている。

     


    撮影重視のシステム
     撮影にもカメラレンズを使用した星野写真から望遠鏡による直焦点と様々だが、複数の鏡筒やレンズを一度に 積載して複数のカメラで同時に撮影するスタイルが定着してきた。ガイド撮影などやりはじめると載せるものが どんどん多くなり、架台も必然的に大きくなってゆく。そこで持ち運べる上限として行き着いたのがこの組み合 わせだ。

  • PENTAX 100SDUF
  • タカハシ FS-78
  • PENTAX 75EDHF(ガイド鏡)
  • タカハシ FC-50(ガイド鏡)
  • ミード Pictor201XT
  • ビクセン ATLUX & メタル脚
  • ノブオ電子 Pyxis


    100SDUF(中央)、75EDHF(左)、
    ATLUX赤道儀


    Pyxis

     ガイド鏡はよく「主鏡と同じ焦点距離は必要」とか訊くけれどそんな長焦点でガイドはしていない。第一に ガイド星が落ち着いて止まっていてくれる好シーイングばかりではないという事がある。「そんなシーイング で撮影は初めから失敗だ」という声が聞こえてくるかもしれないが、私は撮影をしている事や準備や工夫で あれこれ考えている事自体が好きなので仕上がった写真が多少ミスでも、撮らないよりはマシだと考えている。
     上記機材はほんの一例で、時にはガイド鏡を取り去って全て撮影鏡筒にすることもあるし、125SDHFで撮影 する事もEM-200を使用する事もしばしばある。要はまだ固まりきっていないシステムなのだが、ここ最近感じて いるのはプレートの剛性とガイドマウントの剛性の重要性だ。昨年125SDHFと100SDUFを同架して75EDHFをガイド 鏡にしてオートガイドを30分、1時間と行ってみた。結果は100SDUF(400mm)はどちらも問題なしだったが、 125SDHF(800mm)は1時間露出のコマが点像になっていなかった。同刻に同架されていた100SDUFのほうはルーペで 拡大しても相当するズレが見られなかったため、鏡筒バンドもしくはプレートの剛性が不足していたと考えられる。 ガイドマウントのほうは100SDUFの結果が申し分なかったため特に問題なし。この例のように同時に複数の鏡筒 で撮影してみると原因が解りやすい場合が多分にあると思う。単体では何度か繰り返さないと結論に達しないと 考えて、長時間の露出を試みる時はなるべく複数同時撮影を心がけている。本当はただ時間がもったいないので コマ数を稼ぎたいだけなのだが・・・。
     今のところ銀塩写真専門だが将来的にはCCDも取り入れて行きたいと考えている。ただ、もうしばらくは 銀塩の世界を満喫してからにしたいので現在行っている35mm版をある程度やった後に中版もやってみたい。
     単にCCDの購入資金が厳しいという話もあるが、銀塩の技術はほぼ完成されておりCCDは今後さらに進化 が予想されるからだ。今は高価で手が出ない120万画素オーバーのチップがもっと安くなるのを楽しみにしつつ 光害に冒されて縮小してゆく銀塩に力を注ぎたい。
     ダイナミックレンジの違いこそあれど画像処理の楽しみは銀塩でも出来るわけで、フィルムスキャナで取り込んで はあれこれいじってホームページに公開している。これが今の私のメインのスタイルだ。

     


    番外:獅子座流星群向けシステム
     昨年は不発に終わったが33年に一度の天文ショーとして獅子座流星群は見逃せない。もちろん流星は望遠鏡 で見るわけでなく(永続痕とかは別にして)寝転がって眺めるものであり、システムを組むとなると撮影のため である。
     私が昨年獅子群を撮影した時のシステムを紹介しておきたい。

  • カメラ12台(全てペンタックス製35mm版一眼レフ)
  • レンズ対角魚眼〜85mmまで多種
  • タカハシ EM-1s & メタル脚
  • タカハシ EM-200 & メタル脚


    10台同架台座


    8台同架時の撮影風景


    4台同架時の撮影風景

     カメラの台数が尋常じゃない以外はなんの変哲もない組み合わせ。問題なのはこの尋常じゃない台数を どう載せたのかという事だが、スチール製のアングル材を組み立てて台座にした。強度面の問題や配置に よるカメラ同士の干渉などは事前に何度もシミュレーションして本番に臨み、撮影総数の1/4以上のコマ に流星を捕らえることが出来た。今年は更に台数を増やして下手な鉄砲を数打つつもりだ。
     流星に限ったことではないが予め計画して考えて本番で成功するととても嬉しい。達成感・征服感という のは次のステップに進むための必要不可欠な材料となる。この工夫とチャレンジを繰り返すことも星見の 1つとして考えてしまうとなんだか機材を買い漁っている自分を正当化しているように思えてきた。
     ま、道具を買い揃えることも手入れをすることも、曇って飲み会に一転することも含めて全て好きなの は認めますけど・・・。


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