リングのある銀河

 米航空宇宙局(NASA)と宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)は、3つの銀河の画像を候補に挙げ、「ハッブル宇宙望遠鏡」を使ってもっと詳しく見たい銀河はどれか、インターネットを通じて世界の天文ファンにアンケートを行いました。およそ8,000人からの投票で選ばれたのは、「極リング銀河(polar-ring galaxy)」と呼ばれる、珍しい姿をした銀河「NGC 4650A」です。



銀河同士の衝突
 NGC 4650Aは地球から1億3千万光年の彼方にあり、これまでに100点しか見つかっていない円盤のようなリング構造を持つ銀河の一つです。宇宙では、銀河同士の衝突はどちらかといえば珍しいことではなく、このような衝突によって、珍しい特徴を持つ銀河が多数生まれてきたと考えられています。天文学者たちは、NGC 4650Aも同様に、少なくとも10億年前に起こった銀河同士の衝突によって、現在の珍しい形状になったと推論しています。
 明るく輝く中央部分は、かつては中程度の大きさの銀河だったと考えられています。薄いオレンジ色に見えますが、これはこの部分のほとんどが年老いた赤い星で構成されているからです。この銀河がこれよりも小さい別の銀河と衝突した時、小さいほうの銀河は破壊され、そこから生じたガスを残ったほうの銀河が引き寄せました。これが、新しいリング構造が形成される始まりとなりました。



円盤状のリング構造
 このリングの構造については、まだよく分かっていません。天文学者は、リングはガスやちり、恒星を含んでおり、中央の古い銀河のまわりを回っていると考えています。ハッブル望遠鏡が3種類の異なる色のフィルターを使用して撮影したこの画像には、特にリングの外側のほうに向かって、ブルーに輝く部分があるのが分かります。この一帯では、たくさんの星が銀河の衝突の残余から再生されています。これらの星の年齢が分かれば、このリングがいつ、どうやって形成されたかという疑問にもヒントを与えることになるでしょう。
 この画像では、リングはそのへりをほぼ我々地球の方に向けるような形で写っています。その姿は、むしろ雲や星で出来た円盤のようにも見えますが、典型的な円盤銀河に見られるような渦巻き模様は、このリングには見当たりません。天文学者はまた、リングのへりのおよその位置を知る手がかりとなる若い星が一定の平面上にないことから、この円盤状のリングは歪んでいると考えています。
写真:ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた「NGC 4650A」



「暗黒物質」の影響
 円盤銀河に存在する物質は、重力源である中心核からの距離に関係なく、ほとんど同じような速度で銀河内を周回しており、ひとつの謎になっています。これは、太陽から離れた位置にある惑星ほど、太陽から受ける重力が弱まって公転速度も遅くなるという、私達の太陽系とは異なります。この疑問を解く鍵として、もうひとつの重力源となる「暗黒物質」の存在が考えられますが、暗黒物質は光を放射しないため、私達には見ることが出来ません。しかし、ほとんどの円盤銀河は、暗黒物質に取り囲まれていると考えられています。
 NGC 4650Aの最も興味深い点は、そのリングが内部にある古い銀河に対してほぼ直角に位置しているということです。これはまた、円盤状のリングの面が古い銀河の回転軸に平行であるということも意味しています。しかし、リングがこのようなユニークな位置にあるのは、中央の古い銀河の重力だけでなく、暗黒物質の重力の影響もあり得ると推測されています。天文学者は、NGC 4650Aのリング構造について更に研究が進めば、暗黒物質の存在や、それが円盤銀河に与える重力効果についても、もっと多くの証拠を見つけ出すことができるだろうと提唱しています。
関連サイト: STScI: Polar Ring Galaxy Science Team
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