「私達の宇宙は120億歳」 NASAが発表

 宇宙の年齢を解明することは、天文学者にとって長い間最大の挑戦の一つとなっていました。しかし米航空宇宙局(NASA)のハッブル宇宙望遠鏡主要プロジェクトチームは先日、8年間の研究の末に、より信頼性の高い答えを見い出すことに成功したと発表しました。同プロジェクトチームは、米国内及び国際的な13の研究機関に所属する計27人の天文学者で構成されています。宇宙の年齢を計算する鍵となる正確なハッブル定数を決定することにより、同チームは今回、宇宙が120億歳であると推定しています。



膨張する宇宙
 最近では、私達の宇宙はビッグ・バンによる誕生以来膨張を続けてきたというのが一般的な考えです。70年前、アメリカの天文学者エドウィン・ハッブルは、遠くに位置している銀河ほどより速く私達から遠ざかっているように見えることに初めて気がつきました。これはハッブルの法則と呼ばれており、宇宙の膨張率であるハッブル定数はこの理論にもとづき考え出されました。この定数は天文学者にとって、宇宙の年齢、大きさ、そして今後の行く末を判断するのにとても重要です。
 ハッブル定数は、天体の見かけの後退速度を、私達から天体までの距離で割ることにより求められます。この定数(Ho)は、「メガパーセク(mpc;1メガパーセクは約320万光年)あたり毎秒何キロメートル」と表されます。ですから、例えば定数が50Hoなら、320万光年離れた場所に位置する天体は毎秒50kmの早さで私達から遠ざかっているように見え、640万光年離れている天体は、毎秒100kmの早さで後退しているように見えるのです。
グラフ:ハッブル定数(縦軸:見かけの後退速度、横軸:距離)


セファイド型変光星――正確な計算の鍵
 1990年にハッブル宇宙望遠鏡が打ち上げられるまで、天文学者が観測できたのは近くの天体だけでした。正確な定数を割り出すことは難しく、彼らの研究結果もメガパーセクあたり50km〜100km/秒と非常にばらつきがありました。そのため、ハッブル定数を決定することはハッブル望遠鏡の主な課題の一つでした。
 天文学者がハッブル定数を計算するために観測対象にしたものには、超新星や星団など何種類かの天体があります。一方ハッブル研究チームは、18の遠方の銀河に望遠鏡の照準を合わせ、800近くの「セファイド型変光星」と呼ばれる変光星を観測しました。セファイド型変光星はみかけの明るさを2日から100日ごとに周期的に変えるのですが、この頻度は星の実光度と関連性があります。このユニークな特徴のため、セファイド変光星までの距離を正確に割り出すのは比較的簡単であることが知られています。このことは研究チームに精度90パーセントというこれまでにない成果をもたらしてくれました。同チームの計算によれば、ハッブル定数は70km/秒/mpcであるべきだとのことです。
画像左:地上から撮影したNGC1365 右:ハッブルが撮影した同銀河。左の画像中の点線部分を拡大。50のセファイド型変光星を発見


宇宙論の新時代
 最新のハッブル定数と、宇宙の推定密度を使用して、研究チームは宇宙がおよそ120億歳であると決定しました。「ハッブル望遠鏡以前は、天文学者は宇宙が100億歳なのか200億歳なのか決めることが出来ませんでした」とチームリーダーのウエンディ・フリードマンは述べています。「長い歳月の末、私達はようやく正確な宇宙論の時代へと足を踏み入れたのです。いまや私達は、宇宙の起源、進化、そして運命について、より広い見解を、より正確に報告することが出来るのです。」
関連サイト: STScI/Hubble Space Telescope
HubbleConstant.com
"The Expansion Rate and Size of the Universe
宇宙の膨張率と規模について"
by W. Freedman (from Scientific American)
The 1996 debate on the size and age of the Universe


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